コラム

大統領が慰める相手は銃乱射の被害者、じゃなくてサウジアラビア⁉(パックン)

2019年12月27日(金)17時00分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)
大統領が慰める相手は銃乱射の被害者、じゃなくてサウジアラビア⁉(パックン)

I've Got Your Back

<実は歴代の米大統領もサウジアラビアには妙に優しい>

先日フロリダ州ペンサコーラで発生し3人が死亡した銃乱射事件は、日本であまり報道されなかった。しょうがない。2019年、死亡者3人以上の乱射事件は週1回以上のペースで起きた。全部報じるのは難しい。「今週の乱射事件」をまとめたニュースハイライトなんか嫌だし。

でも、今回は特別な話題性があった。場所は米海軍のパイロット訓練施設で、犠牲者は海軍兵。犯人はサウジアラビア空軍少尉だから当然、ドナルド・トランプ大統領の反応が注目された。彼は以前、「イスラム過激派と戦争中だ」と宣言した。ロンドンでのイスラム過激派テロの後、「あの獣たちは狂っている。力で対応するしかない」とツイートした。攻撃を恐れて「イスラム教徒の全面入国禁止」を大統領選中に呼び掛け、実際にイスラム圏7カ国からの入国を禁ずる大統領令を発令した。そんなトランプはもちろん、イスラム教徒による大量殺人事件に黙っていない。会見で思いっきり犯人の出身国を......かばった。

実は歴代の大統領もサウジアラビアには妙に優しい。2001年、9.11テロの犯人のほとんどの出身国であるサウジアラビアを責めなかった。全土で飛行禁止令が出るなか、サウジの王室サウド家と王族関係者は飛行機で特別に帰国させてもらえた。テロの首謀者ウサマ・ビンラディンの一族である、ビンラディン家の人も含めてだ。当時の大統領はサウド家と家族付き合いがあり、ビジネス関係が近いジョージ・W・ブッシュだった。

16年には9.11テロの遺族のサウジアラビア政府に対する賠償請求を可能にする法案が米議会を通った。だが、バラク・オバマ大統領が拒否権を行使した(最終的には立法されたけど)。

でもその周辺国には厳しい。この20年でサウジアラビア人からの攻撃で亡くなったアメリカ人は約3000人。一方、いわゆる「イスラム教徒入国禁止令」の対象国の国民が米国内のテロで殺したのは0人。9.11の犯人19人のうち、15人がサウジアラビア人で、残りはUAE(アラブ首長国連邦)、レバノンやエジプト国籍だった。アメリカが報復攻撃したのは......アフガニスタン。

不思議だね。当事国より周辺諸国が罰せられている。パックンの悪さでマックンが怒られるようなものだ。ま、それなら構わないけど。

【ポイント】
I'M HERE TO COMFORT THOSE ADVERSELY AFFECTED BY THE SAUDI ARABIAN SHOOTER IN PENSACOLA.

ペンサコーラでサウジアラビア人銃撃犯から被害を受けた人々を慰めるために来ました。

THERE, THERE.
よしよし、大丈夫だよ。

<本誌2019年12月31日/2020年1月7日新年合併号掲載>

2019123120200107issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2019年12月31日/2020年1月7日号(12月24日発売)は「ISSUES 2020」特集。米大統領選トランプ再選の可能性、「見えない」日本外交の処方箋、中国・インド経済の急成長の終焉など、12の論点から無秩序化する世界を読み解く年末の大合併号です。

プロフィール

ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

ニュース速報

ワールド

豪、シドニーの有名ビーチに臨時の新型ウイルス検査施

ビジネス

焦点:限界近づく米国の零細企業、新型コロナで運転資

ワールド

米空母艦長「兵士が死ぬ必要ない」 新型コロナ感染で

ワールド

アルゼンチン、31日の期限後も債務再編交渉を継続=

MAGAZINE

特集:コロナ危機後の世界経済

2020-4・ 7号(3/31発売)

感染拡大で経済先進国の序列と秩序はこう変わる── コロナ後の「ニュー・エコノミー」を識者が徹底解説

人気ランキング

  • 1

    ドイツ政府「アーティストは必要不可欠であるだけでなく、生命維持に必要なのだ」大規模支援

  • 2

    食肉市場に出回るペット 出荷前には無理やり泥水を流し込み...

  • 3

    新型コロナ、若者ばかりが責められて「中高年」の問題行動が責められないのはなぜか

  • 4

    BCGワクチンの効果を検証する動きが広がる 新型コロ…

  • 5

    「コロナ失業」のリスクが最も高い業種は?

  • 6

    コロナ禍のアメリカでひよこがバカ売れ

  • 7

    日本で新型コロナの死亡率が低いのは、なぜなのか?

  • 8

    ブラジル大統領ロックダウンを拒否「どうせ誰もがい…

  • 9

    緊急公開:人類と感染症、闘いと共存の歴史(全文)

  • 10

    ペットに共食いさせても懲りない飼い主──凄惨な退去…

  • 1

    ドイツ政府「アーティストは必要不可欠であるだけでなく、生命維持に必要なのだ」大規模支援

  • 2

    「コロナ失業」のリスクが最も高い業種は?

  • 3

    日本で新型コロナの死亡率が低いのは、なぜなのか?

  • 4

    韓国激震 常軌を逸した極悪わいせつ動画SNS「N番ル…

  • 5

    「緊急事態宣言、4月1日に出すという事実ない」 菅官…

  • 6

    食肉市場に出回るペット 出荷前には無理やり泥水を…

  • 7

    日本が新型肺炎に強かった理由

  • 8

    新型コロナ、若者ばかりが責められて「中高年」の問…

  • 9

    新型肺炎で泣き面の中国を今度はバッタが襲う

  • 10

    囚人コーチが教える最強の部屋トレ 自重力トレーニ…

  • 1

    一斉休校でわかった日本人のレベルの低さ

  • 2

    日本が新型肺炎に強かった理由

  • 3

    韓国はなぜ日本の入国制限に猛反発したのか

  • 4

    ドイツ政府「アーティストは必要不可欠であるだけで…

  • 5

    フランスから見ると驚愕の域、日本の鉄道のあり得な…

  • 6

    新型コロナショック対策:消費税減税も現金給付も100…

  • 7

    「NO JAPAN」に揺れた韓国へ「股」をかけて活躍した日…

  • 8

    やっぱり日本は終わりだ

  • 9

    ついに日本は終わった

  • 10

    日本で新型コロナの死亡率が低いのは、なぜなのか?

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
Wonderful Story
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!