コラム

トランプのヘイト発言に熱狂的な岩盤支持(パックン)

2019年08月03日(土)13時50分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

Trump's "Go Back" Remark / (c)2019 ROGERS─ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<人種差別や女性蔑視、外国人恐怖症......ヘイトに満ちた人がこんなにいるアメリカはもう立て直しようがないかもしれない>

この国を批判する前に、崩壊して犯罪まみれの出身国に帰って、立て直す手助けをしたらどうか――ドナルド・トランプ米大統領が野党の女性議員4人に対してツイッターでこう攻撃した。僕もたまに2ちゃんねるなどで同じようなことを書かれるが、それとこれとは確実に違う。

まず、4人はアメリカ国籍を持っている。うち3人はアメリカ生まれ。実はトランプも移民の親から生まれたアメリカ人だ。一方、僕は日本の永住権を持っているが、ふざけて本名を「鳩゚陸波乱」と書くことがあっても国籍はない。

次に、4人は下院議員。有権者に選ばれた公職者だ。僕は「イケメンなのにそそられない男性有名人ランキング」で6位に選ばれているが、これは在留資格を伴わないものだ。

最後に、4人に「帰れ」と言っているのは大統領。イスラム圏からの入国を禁止しようとしたり、メキシコとの国境に壁を建てようとしたりして、外国人廃絶政策を推す権力者だ。僕を批判しているのはネトウヨで、外国人労働者の受け入れを推進する日本の首相ではない(はず)。安倍さんが、わざわざ2ちゃんねるに書き込んでいるなら、むしろ光栄だ。

Go back to where you came from! 風刺画では4人がトランプ顔の生き物に同じような文句を返している。その絵から、相手を気持ち悪い虫けら扱いにする、有名なけなし文句 Go back to whatever rock you crawled out from under !(はい出てきた石の下に帰れ!)にちなんでいることが分かる。「トランプ虫」の出元は racism(人種差別主義)、misogyny(女性蔑視)、xenophobia(外国人恐怖症)、hate(ヘイト=憎しみ)と書かれた石。「そんなものを多様性に富んだ寛容な今のアメリカに持ち込むな」と風刺画家は言いたいのだろう。

残念ながら、非現実的なメッセージだ。「バラク・オバマはケニア人だ」「メキシコからの移民はレイプ犯や犯罪者だ」などと主張しながら、トランプは大統領選挙に当選した。就任後も、ネオナチを「いい人」とかばっても、アフリカ諸国を「クソだめの国々」と言っても支持率は下がらない。持ち込んだのではなく、もともとあった差別的な思想に便乗してトランプ大統領が誕生したとみられる。現に、先日の集会の演説でトランプが4人のうちの1人を批判した瞬間、聴衆が「Send her back! Send her back!(か・え・せ! か・え・せ!)」とコールを上げた。あの虫のすみかは石というより、硬い岩盤のようだ。

人種差別や女性蔑視、外国人恐怖症、ヘイトに満ちた人がこんなにいる国はもう立て直しようがないかもしれない。申し訳ないが、しばらく僕を帰さないでいただけますか?

<本誌2019年8月6日号掲載>

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

20190806issue_cover200.jpg
※8月6日号(7月30日発売)は、「ハードブレグジット:衝撃に備えよ」特集。ボリス・ジョンソンとは何者か。奇行と暴言と変な髪型で有名なこの英新首相は、どれだけ危険なのか。合意なきEU離脱の不確実性とリスク。日本企業には好機になるかもしれない。


プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

航空業界ネットゼロに黄信号、SAF供給不足 目標未

ビジネス

金利上昇続くより、日本の成長や債務残高GDP比率低

ワールド

米、中国軍のレーダー照射を批判 「日本への関与揺る

ビジネス

午前の日経平均は反落、FOMC警戒で朝高後に軟化
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「財政危機」招くおそれ
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 8
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story