コラム

トランプは国家非常事態という「妖精」を信じている?(パックン)

2019年03月08日(金)19時30分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

Trump's Fairy Tale / (c) 2019 ROGERS─ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<メキシコ国境との壁の建設予算を確保できるように国家非常事態を宣言したトランプ――でも当の本人でさえ現状が「非常事態」とは信じていない>

アメリカで民主党の政策はよく共和党に「絵に描いた餅」と揶揄される。国民皆保険? グリーン・ニューディール? どれも現実味のない、童話レベルの空想だ! そんな批判によく使われる文言は「サンタクロースやトゥースフェアリー(歯の妖精)でも信じるのか?」だが、その架空人物のラインアップに新しい妖精が加わりそう。

メキシコとの国境に壁を建てると公約して当選したドナルド・トランプ米大統領。「素晴らしい交渉人」と自称し、与党が上下両院を支配していたのに2年間その予算を確保できなかった。中間選挙で野党・民主党が下院の支配権を勝ち取ると、交渉はさらに難航した。そこで2月15日に、大統領の権限で勝手に予算を充てられるように国家非常事態を宣言した。

しかし、非常事態の実態はない。トランプは「すさまじい人数」の不法入国者がアメリカを「侵略」しているとし、「大量の麻薬密輸」を防ぐため、壁が今すぐ必要だと主張する。だが、南側国境からの不法入国者数は1971年以来の低水準。ピーク時の2000年には160万人以上だった人数は17年に30万人近くまで減った。不法入国よりも、合法的に入国してから不法残留する人が圧倒的に多い。ちなみに、観光ビザで入国してから不法に仕事をするケースも多いが、AP通信によるとメラニア・トランプもそんな1人だった。ご参考までに。

同じく、アメリカに入ってくる麻薬のほぼ全ては通関港を通る。当然だ。徒歩で砂漠を渡り入国してくる人のリュックなどに麻薬が入っているかもしれないが、乗用車、トラック、電車、船などで運ばれる量のほうが多いに決まっている。国境を越える人より、常識を超える主張が怖い。

非常事態を疑うのは僕だけではない。「もっと時間をかけて壁を造ることも可能」「やる必要はない」との声もある。というか、言ったのはトランプ本人。それも非常事態を宣言したときに! しかもその翌日にはゴルフ! 本人も「国家非常事態妖精(National Emergency Fairy)」を信じていないようだ。

ところで去年のクリスマスイブに、トランプは小学校2年生の女の子に「サンタのことをまだ信じてるの?」「7歳だと、ぎりぎりでしょ?」と聞いた。それでも少女にはサンタを信じていてほしいが、僕はもうこんな大統領を信じられない

【ポイント】
MEDICARE FOR ALL?... GREEN NEW DEAL?... DEMOCRATS PROBABLY STILL BELIEVE IN SANTA AND THE EASTER BUNNY!

メディケア(高齢者医療保険制度)の皆保険? グリーン・ニューディール(自然エネルギーや温暖化対策に公共投資する政策)? 民主党はまだサンタやイースターバニーを信じているんだろうな!

<本誌2019年03年12月号掲載>

※3月12日号(3月5日発売)は「韓国ファクトチェック」特集。文政権は反日で支持率を上げている/韓国は日本経済に依存している/韓国軍は弱い/リベラル政権が終われば反日も終わる/韓国人は日本が嫌い......。日韓関係悪化に伴い議論が噴出しているが、日本人の韓国認識は実は間違いだらけ。事態の打開には、データに基づいた「ファクトチェック」がまずは必要だ――。木村 幹・神戸大学大学院国際協力研究科教授が寄稿。

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナ、米国の和平案を受領 トランプ氏と近く協

ワールド

トランプ氏、民主6議員を「反逆者」と非難 軍に違法

ビジネス

米9月中古住宅販売、1.2%増の410万戸 住宅金

ワールド

中ロ、ミサイル防衛と「戦略安定」巡り協議 協力強化
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 6
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 9
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story