コラム

「何でも公有」中国を警戒せよ

2023年02月20日(月)11時50分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
中国

©2023 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<発電所、水源そして土地...中国資本は隙間さえあれば民間の名目ですぐ入り込んでくる>

中国がアメリカ上空に飛ばした「スパイ気球」は世界に大注目された。中国政府は民間気象観測用であると主張しているが、信じる人は少ない。同じ頃、ある30代の中国人女性がSNS上で「親族の会社名義で日本の島を購入した」と自慢した投稿が日本で大きな物議を醸した。購入したのは沖縄北部の無人島で、安全保障上の制約がある場所ではないが、女性の背後に中国政府がいるのではないかと人々は疑っている。

【画像】「日本の無人島を買った」としている中国人の女

その疑いには理由がある。まず公有制国家の中国で、全てのものは国家の財産である。鄧小平時代になってから改革開放政策で住宅は商品化され、個人売買できるようになった。だが土地はあくまで国家に属している。大金を費やして購入しても、所有できるのは最長70年間の使用権だけである。

また改革開放後、国有企業に対して「民営企業」という呼び方も広まった。しかし一党独裁の中国では、国有企業であろうと民営企業であろうと、社内に党支部を設立しないといけない。中国におけるトップIT企業の騰訊(テンセント)は、1998年の設立から5年後の2003年に政府の命令で党支部を設立。いま社内の党支部の数は400に近い。

「資本浸透」も、党が民営企業を支配する方法である。先日、国有資本のバックグラウンドを持つ企業やファンドが、電子商取引大手アリババ・グループ傘下の2社の「黄金股(拒否権付株式)」を取得した。これは中国政府のアリババに対する統制強化を示唆している。

このような手法は海外でも見かける。例えば、大阪市民に注目された大阪南港咲洲メガソーラー(太陽光発電)事業。日本企業が落札したがその後、中国の国有企業である電力会社の日本法人が事業者に加わった。発電所という大事な日本のインフラ施設が、なぜ中国の国有企業によって建設・管理されるのか。

発電所、水源そして土地......。中国資本は隙間さえあれば民間の名目ですぐ入り込んでくる。日本を含めた民主主義の国はもっと警戒心を持つべきではないか。中国は後に『遼寧』に改装した中古空母をウクライナから購入する際、「軍艦として使わない」と約束していたのだ。

ポイント

黄金股
黄金株。株主総会や取締役会で、重要議案を否決できる権利を与えられた特別な株式。拒否権付株式とも言う。敵対的買収防衛策の1つとされる。

遼寧
ソ連時代のウクライナで1988年に『ワリャーグ』として進水。その後、岩壁に放置されていたが、中国が関心を持ち、98年に軍艦として再生しないことを前提にマカオの観光会社に売却された。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

インド・EUのFTA交渉、鉄鋼・車・炭素税でさらな

ビジネス

日産社長「国内事業を再始動」、新型エルグランドとパ

ワールド

豪の難民ナウル移送、秘密裏の実施を懸念=人権委

ビジネス

消費者態度指数、10月は3カ月連続上昇し35.8 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」にSNS震撼、誰もが恐れる「その正体」とは?
  • 2
    コレがなければ「進次郎が首相」?...高市早苗を総理に押し上げた「2つの要因」、流れを変えたカーク「参政党演説」
  • 3
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大ショック...ネットでは「ラッキーでは?」の声
  • 4
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 5
    「ランナーズハイ」から覚めたイスラエルが直面する…
  • 6
    楽器演奏が「脳の健康」を保つ...高齢期の記憶力維持…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    リチウムイオンバッテリー火災で国家クラウドが炎上─…
  • 9
    「何これ?...」家の天井から生えてきた「奇妙な塊」…
  • 10
    怒れるトランプが息の根を止めようとしている、プー…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 10
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story