コラム

北京五輪の外交ボイコットに対抗する中国が打つ「先手」

2021年11月27日(土)12時00分

中国政府はアメリカの「外交ボイコット」にどう対処する? THOMAS PETERーREUTERS

<開催まで100日をきった冬季五輪大会。人権問題などを受けてボイコットを求める声も高まっているが現実的な落とし所は?>

アメリカは、中国の人権問題を理由に2月の北京冬季五輪をボイコットするのか。

五輪のボイコットに前例がないわけではない。歴史を振り返ると、正式なものだけでも、1956年メルボルン大会、64年東京大会、76年モントリオール大会、80年モスクワ大会、84 年ロサンゼルス大会、88年ソウル大会の6つの大会を一部の国がボイコットしている。

しかし前回の五輪ボイコットは34年も前のことだ。しかも、大会の規模も昔とは比べものにならないくらい大きくなっている。もしアメリカが北京五輪のボイコットに踏み切れば、激震が走るだろう。

もっとも、五輪のボイコットは象徴的な意味しか持たない。80年代にアメリカと当時のソ連が互いの国で開かれた大会をボイコットしたときも、五輪に向けて生涯を懸けて準備してきたトップアスリートたちの努力が台無しになる一方で、世界秩序が大きく変わることはなかった。

もしアメリカが今回の北京五輪をボイコットすれば、新たな超大国によって地位を脅かされている旧超大国が恐怖心を募らせ、いら立っているという印象を与えかねない。アメリカの国際的な威信と相対的な経済力が低下していることは、ボイコットを思いとどまらせる要因になるかもしれない。中国が報復措置を取った場合にアメリカが被るダメージは昔よりも大きい。五輪スポンサー企業の多くにとって、中国市場の重要性が増していることも無視できない。

アメリカでは米国オリンピック・パラリンピック委員会も大多数の選手も、五輪への不参加には強く反対している。それよりも無難で実行しやすいのは、いわゆる「外交ボイコット」だ。選手団は派遣するが、政府高官は派遣しないという形の対応である。

このアプローチは開催国である中国に屈辱を与える一方で、80年のモスクワ五輪をボイコットした際の失敗を繰り返さずに済む。アメリカがモスクワ五輪への選手団派遣を見送ったことは、当時のソ連政府に絶好のプロパガンダの機会を与えてしまったという見方が根強くあるのだ。80年のソ連や今の中国のように政府が厳しく情報統制を行っている国では、アメリカが五輪に参加しなければ、アメリカの衰退の表れだと自国民に印象付ける材料に使われかねない。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:日米為替声明、「高市トレード」で思惑 円

ワールド

タイ次期財務相、通貨高抑制で中銀と協力 資本の動き

ビジネス

三菱自、30年度に日本販売1.5倍増へ 国内市場の

ワールド

石油需要、アジアで伸び続く=ロシア石油大手トップ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story