コラム

ニューヨーク・タイムズに告ぐ、もう候補者推薦を止めよ

2020年01月29日(水)12時15分

ニューヨーク・タイムズは女性候補2人への支持を表明したが…… IVAN ALVARADOーREUTERS

<読者のために良かれと思い160年も続けている習慣だがトランプ時代にはそぐわない>

新聞は建前上、現実の公正な媒介者であり、読者が客観的な情報を得られるように特定の価値判断や意見の偏りを排除した報道を行うことになっている。

だがニューヨーク・タイムズ(NYT)紙は1月19日、160年前から続く慣例にのっとり旗色を鮮明にした。米大統領選の民主党候補として、エリザベス・ウォーレン、エイミー・クロブシャー両上院議員を支持すると表明したのだ。

これでも新聞は公平な媒介者なのか。特定候補への支持を明言しておきながら、日頃のニュース報道は客観的だと、どうして言えるのか。

代表的な新聞側の自己弁護は、社説などの論説部門とニュース部門は完全に分離されているというものだ。公共政策を報道する場合には、(ニュース部門の客観的な事実報道をゆがめない範囲で)実際には何が望ましいかを提言または議論する論説部門が必要だと、彼らは口をそろえる。新聞にはまた、読者が複雑な世界を理解し、自分の意見を持つ手助けをするという役割もある。特定候補の推薦も、この役割の一部だ。

だが、反エリート主義のポピュリズムが優勢な今の時代には、権威あるメディアの推薦は逆効果になりかねない。16年大統領選の民主党候補ヒラリー・クリントンは歴史上、新聞やニュース雑誌から最も支持された候補者だった。高級紙や雑誌の実に97%から支持を集めていた。NYTは民主党の「選挙マシン」かだが、大統領選では勝てなかった。

それどころか、新聞の推薦はヒラリーの足を引っ張ったとも言われている。マスメディアは反トランプの陰謀に加担しているという主張に根拠を与え、メディアの批判に対するトランプの防御力を強化する結果になったからだ。

この傾向はトランプの大統領就任後、さらに強まっている。ナイト財団の中立的な研究によると、共和党支持者の90%はメディアを信用していない。メディアは「正しい」行動を促すために推薦状を出しているのに、皮肉な話だ。推薦状は今や、彼らが大統領と敵対関係にある証拠と見なされている。

これも皮肉な話だが、トランプが悪行の告発から逃げおおせる可能性が高いのも、一部には伝統的な新聞の推薦のせいでもある。新聞がトランプのさまざまなレベルの犯罪行為を客観的に報道しても、トランプ支持者からは偏向メディアの作り話として一蹴されてしまう。メディア側はよかれと思ってやっている。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

金利正常化は「適切なペース」で、時期は経済・物価見

ビジネス

PB目標転換「しっかり見極め必要」、慎重な財政運営

ワールド

中国、日中韓3カ国文化相会合の延期通告=韓国政府

ワールド

ヨルダン川西岸のパレスチナ人強制避難は戦争犯罪、人
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 7
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 8
    ホワイトカラー志望への偏りが人手不足をより深刻化…
  • 9
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 10
    衛星画像が捉えた中国の「侵攻部隊」
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 7
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story