コラム

連邦最高裁判事指名、カバノー騒動が浮き彫りにした米政治の劣化ぶり

2018年10月05日(金)16時15分

性的暴行疑惑が持ち上がったカバノー(上院司法委員会の公聴会) REUTERS

<トランプが連邦最高裁判事に指名したカバノーは「法の番人」に求められる資質を完全に欠いている>

17歳のブレット・カバノーが当時15歳の女性に性的暴行を働いたのか、真相は分からない。しかし、少なくともはっきりしていることが1つある。それは、この男が世界で最も強力な司法機関の裁判官を終身で務めるのにふさわしい人間ではない、ということだ。

人の本性は、逆境に置かれたときに分かると言われる。その点、カバノーが試練の場で見せたのは、弁解がましく、狭量で傲慢、冷血な姿だった。

トランプ米大統領から連邦最高裁の判事に指名されたカバノーは、9月27日、指名承認を審議する上院司法委員会の公聴会に出席した。1時間近い証言は、過去の業績を並べ立てることにほぼ終始した。しかし、涙交じりに自らの正当性を訴えたかと思えばけんか腰で批判にかみつく態度は、「法の番人」に求められる高潔さ、冷静さ、客観性、公正性の対極にあった。

上院司法委員会が28日に指名を承認し、次は上院本会議に進む予定だったが、さすがのトランプと共和党も気まずくなったのかもしれない。FBIが追加調査を行うことになり、本会議での採決が先延ばしになった。

カバノーはトランプ時代の象徴だ。ある風刺コラムニストは、「嘘を言い、絶叫し、捜査を嫌う」カバノーがトランプを連想させると揶揄した。

「変節」したベテラン議員

性的暴行疑惑に対するカバノーと共和党の振る舞いは、説得力を欠く。暴行を受けたと証言したクリスティン・フォードの話は穏やかで論理的だった。証言に説得力があっただけではない。嘘発見器のテストも受け、FBIの全面的な捜査も求めた。これは、真実を語っている人間の取る行動だ。

それに対し、共和党は一刻も早く指名承認手続きを終わらせようと躍起になっている。カバノー自身も嘘発見器のテストを拒否し、FBIの捜査を極度に恐れているように見える。どちらの主張に信憑性があるかは明白だろう。

カバノーは心が狭く、情緒不安定でけんかっ早い人間だ。先日、2月にフロリダ州で起きた学校銃乱射事件の犠牲者の父親が挨拶しようとして手を差し出すと、カバノーは握手に応じず、背を向けて立ち去った。

今回の公聴会では、この種の狭量な振る舞いが繰り返された。民主党議員を嘲るようなことを述べたり、質問者を挑発するように無関係の逆質問をぶつけたりしている。

カバノーは人生で最も重要な採用面接の場で、精神の安定を完全に失った。最高裁判事として重要な問題について客観的な判断を下せるとは思えない。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米総合PMI、12月は半年ぶりの低水準 新規受注が

ワールド

バンス副大統領、激戦州で政策アピール 中間選挙控え

ワールド

欧州評議会、ウクライナ損害賠償へ新組織 創設案に3

ビジネス

米雇用、11月予想上回る+6.4万人 失業率は4年
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 8
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「日本中が人手不足」のウソ...産業界が人口減少を乗…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story