コラム

自民党総裁選や野党の論戦、財政規律は大丈夫なのか?

2021年09月23日(木)16時00分

ダメだとは言いません。世界各国がやっているように、コロナ禍の低迷から抜け出すための勢いをつけるには、財政出動は必要です。また、いくら個人金融資産がカバーしていると言っても、日本国内にはリスク選好マネーがない中では、新技術の開発投資などは国策として資金を用意する必要はあるでしょう。

けれども、今回の議論を契機に「タガが外れたように」財政規律を崩していってはダメだと思います。3点問題提起しておきたいと思います。

1点目は、必ずリターンのある投資に限定するということです。コロナ禍対策でも、産業を守り雇用を守り、その産業が再度フル稼働した場合には、投資した資金がグルグル回るような性格のカネに投資すべきです。

テクノロジーの国外流出

2点目は、投資が国外に流れないようにすることです。現在、日本企業の多くは多国籍化しており、売り上げと利益の過半は海外で稼いでいます。それだけではなく、最先端のテクノロジーやデザイン、マーケティングなども国外に流出しています。

優秀な人材が確保できず、非効率的な慣行に縛られた国内から、生産拠点だけでなく、高付加価値部門まで空洞化しているというのが日本経済の現在の構図だからです。そんななかで、何も考えずに「日本企業」に助成しても、公金が国外流出するだけでGDPへのリターンはなりません。この点には警戒が必要です。

3点目は、投資には改革が必要だということです。ただでさえ生産性の低迷が問題になっているなかで、改革を伴わずに投資をしても収益のリターンは望めません。そんな中で、アベノミクスの場合は「第3の矢」であるはずの改革は不発に終わり、高市氏の「サナエノミクス」では改革の2文字は消えてしまいました。現状維持型の世論に配慮したのであれば、これは大変に心配な状況です。

コロナ禍の経済危機が続く中で、財政規律を緩めてでも投資が必要だというのは、分かります。ですが、この3点は死守していかないと、経済も財政もさらに低迷が重なって、70年代のイギリスのように瀕死の状態になる危険があります。大胆さと慎重さをダイナミックに併せ持った経営感覚が政治には求められているのだと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

最近の急速なウォン安・円安、深刻な懸念共有=日韓対

ワールド

米戦略石油備蓄の第1弾、来週末までに供給 8600

ビジネス

日立とGEベルノバ、東南アジアで小型モジュール炉導

ワールド

米商務省、AI半導体輸出の新規則案を撤回 公表から
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製をモデルにした米国製ドローンを投入
  • 2
    有人機の「盾」となる使い捨て無人機...空の戦いに革命をもたらす「新世代ドローン」とは?
  • 3
    イラン攻撃のさなか、トランプが行った「執務室の祈祷」を中国がミーム化...パロディ動画が拡散中
  • 4
    「映画賞の世界は、はっきり言って地獄だ」――ショー…
  • 5
    ファラオが眠る王家の谷に残されていた「インド系言…
  • 6
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切り…
  • 7
    ホルムズ封鎖で中国動く、イランと直接協議へ
  • 8
    機内で「人生最悪」の経験をした女性客...後ろの客の…
  • 9
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 10
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 4
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 5
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 6
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 8
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切り…
  • 9
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 10
    40年以上ぶり...イスラエル戦闘機「F-35I」が、イラ…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story