コラム

なぜ今アメリカの一部で「中絶禁止」が勢い付いているのか

2019年05月21日(火)18時40分

劣勢だった2018年の中間選挙で、曲がりなりにも共和党が上院で過半数を確保したのは、この点が大きかった、つまり宗教保守派が棄権せずに投票所に行ったからだと言われています。

連邦最高裁は現在、トランプが送り込んだ保守派判事2人を加えて、「保守5人、リベラル4人」というバランスになっています。但し、保守派の1人に数えられるにしても、ロバーツ最高裁長官は、おそらく歴史の審判を意識しており、軽率な判例変更には慎重だと思われます。ということは、保守派としては、あと1人保守系の判事を送り込めばという「悲願」をトランプに託しているし、その可能性を信じているわけです。

そうしたムードが醸成されているなかで、ここへ来て保守州の多くで「中絶禁止法」が続々と可決成立しているというわけです。トランプ大統領は、ロシア疑惑をまだ引きずっており、また中国との通商戦争で株価下落のリスクも背負っています。

そんななかで、大統領は自分が2020年の再選を目指すうえで、宗教保守票は大きな鍵を握ると見ているようです。これに応えるように、大統領が「どんどん保守派判事を最高裁に送り込む」こと期待しつつ、保守州では「中絶禁止法」がどんどんエスカレートしていくと考えられます。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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