コラム

ムラー報告書公表から1週間、米政治の混迷はむしろ深まっている

2019年04月25日(木)15時10分

ムラーリポート公表を受けてトランプの支持率は明らかに低下している Leah Mills-REUTERS

<トランプ支持派、反トランプの民主党左派、中間層の世論......それぞれのグループの対応がいまだに定まらない>

4月18日に「ムラー特別検察官報告書」が公表されて1週間が経過しました。1週間も経てば、賛成と反対のリアクションもハッキリして、政治的な勝敗も明らかになっていても良さそうな時期です。ところが、今回の報告書については、そうではありません。トランプ大統領とその支持派、アンチ・トランプの民主党、中間層の世論、と仮に3つのグループに分けたとして、それぞれのリアクションが固まりません。

まず大統領自身がそうです。3月末に報告書に関してバー司法長官による4ページの「要約」が出て大統領の訴追はされないことが固まった時点では、大統領は喜んでいました。「(ロシアとの)共謀はない」「司法妨害もない」のだとして、それまでの民主党やメディアの攻撃は全て「フェイク」だと決めつけ、勝利宣言をしていたのです。

今回の報告書全文の発表でも、直後はそうだったのですが、400ページにわたる内容が徐々に明らかになるとリアクションは変わりました。「ロシアとの関係の詳細」「限りなく司法妨害に近い司法省への圧力の詳細」「陣営メンバーのウィキリークスへの接近」などのエピソードが書かれていたことを知ると、大統領は一転して「ひどい内容」だと言って怒りのモードに入っています。

民主党内の対立は激化

一方の民主党ですが、報告書の公表前の時点では、とりあえず党の「顔」であるナンシー・ペロシ下院議長などが「弾劾は求めず、選挙で決着をつける」という党の方針を確認していました。

ですが、レポートの全文が発表になると黙っていられなくなるグループが出て来ました。従来から弾劾強硬派であるオカシオコルテス議員など党内左派からは、「こんなに倫理的に問題のある大統領を弾劾できないのはおかしい」という声が上がっています。その結果として、政策面だけでも極端な左派と中道の対立がますます激化しています。

その背景には中道層の動揺という問題があります。各メディアは「灰色だが訴追はなし」「訴追はないが容疑に関係するエピソードは公開」、という今回の報告書について、元来のトランプ支持者は「勝利」と思うだろうし、反対派は「倫理的に批判」という攻勢を強めるだろう、しかし所詮は左右対立の中で何も変わらないのではないかという計算をしていました。

ですが、世論調査が示すものは少し違いました。調査機関にもよりますが、今回の「レポート公表」を受けて、大統領の支持率は明らかに低下しています。就任以来最低とは言えないものの、例えば保守系のFOXニュースでも不支持が支持を6%も上回っています。ちなみに、政治サイト「リアル・クリアー・ポリティクス」調べの主要世論調査の全国平均では、支持率43.9%まで下がっています。ということは、支持派は勝利、反対派は怒りという対立の固定化ではなく、少なくとも中間層の一部が「不支持に回った」と考えねばなりません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米国務長官、ASEAN地域の重要性強調 関税攻勢の

ワールド

英仏、核抑止力で「歴史的」連携 首脳が合意

ビジネス

米エヌビディア時価総額、終値ベースで4兆ドル突破

ビジネス

FRBが大手銀行の評定方式改定案、「良好な経営」評
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 6
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 7
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 8
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 9
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 10
    昼寝中のはずが...モニターが映し出した赤ちゃんの「…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story