コラム

トランプは北朝鮮核問題を外交解決へと導けるか

2017年11月02日(木)15時45分

トランプは国内でロシア疑惑をはじめ多くのトラブルを抱えている Kevin Lamarque-REUTERS

<北朝鮮に核開発を放棄させる外交的解決策が周辺国間で探られるなか、来週日中韓を歴訪するトランプには調整役を果たす期待がかかるが>

トランプ大統領の東アジア歴訪が迫る中、ここ45日間ほどの間、北朝鮮はミサイル発射や核実験などといった軍事的挑発を控えています。この点に関して11月1日に新内閣発足にあたって会見に臨んだ安倍総理は、「言葉による挑発は続いている」としながらも「北朝鮮側から対話をしてほしいと言ってくる状況をつくらなければならない」という基本スタンスを表明していました。

では、今回行われる東アジア諸国とアメリカの一連の首脳会談では、北朝鮮問題については、本当に外交的な解決へと向かうのでしょうか? この点を占う上で、関係5カ国の立場を確認してみます。

まずアメリカでは、トランプ大統領としては「国内のトラブル」を多く抱える中で、外交的成果を出さなくてはならない状況に追い込まれています。ロシア疑惑では3人の元側近が訴追される一方で、ハリケーンで被災したプエルトリコに対して冷酷な姿勢を示して以来、支持率は40%割れが恒常化しており、史上最低(就任9カ月の時点で)水準という状況です。

そんな中で、野党の民主党が「北朝鮮への一方的な軍事作戦を禁止する」決議を提案しています。その意味合いですが、現在のトランプ政権をめぐる状況は「政権浮揚のためにギャンブル的な強硬策に打って出る」ような条件下にはありません。民主党の決議案も「まだ何かやりそう」に見える大統領を牽制するというよりは、野党としての議会での駆け引きの一端と見るのが正しそうです。

一方で、党大会が終わったばかりの中国ですが、習近平国家主席が「二期目」のスタートに当たって「権力の集中」を強めているようです。では、習近平体制は「何でもできる」し、「力を誇示」するために強硬策も辞さないのかというと、それは違うと思います。いきなり軍事紛争というトラブルに直面しては、習近平の言う「新時代」の宣言は全く説得力がなくなるわけで、今は外交的解決を志向する政治的局面と見るのが正しいと思います。

韓国に関しては、仮に朝鮮半島危機というのが現実となれば大きな被害を受ける立場です。現在の文在寅政権というのは左派政権ですから、「経済より統一の大義」を志向する性格を持っています。ですが、韓国が「模範」としている東西ドイツ再統一という「成功事例」と比較すると現在の経済力では北朝鮮を吸収合併しても、共倒れになってしまう危険があるわけで、「なし崩し的な統一」を期待する状況にはありません。様々な危険を抱えた「強硬策」は、韓国としても選択できないのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story