コラム

混乱のまま投票日に向かう衆院選、民意をどう読み取るか

2017年10月19日(木)17時20分

ただ、全体的に見た時に、今回の選挙というのは「民意を読む」ことは非常に難しい選挙になる、そんな印象を持っています。例えば、仮に多くのメディアが報じているように、連立与党が大勝したからと言って、国民が政策に関して強く支持をしているとか、スキャンダルに関しての「選挙の洗礼」は済んだと考えてしまっては、足元をすくわれるでしょう。

その一方で、もう少し長い目で見ると、今回の選挙というのは、「日本型の小さな政府論」というものが、政治的な形を取っていく一つのプロセスとしては意味があると思っています。

具体的に言えば、

▼旧民主党の「官公労には甘い」が「個別の使途は仕分けする」という不完全な小さな政府論。

▼「みんなの党」の「官公労と対決して行革を志向する」一方で「都市型政党ながら都市票のニーズをつかめなかった」という、失敗した小さな政府論。

▼大阪維新の持っていた、「民間経済の衰退」に見合うだけ「官公庁もリストラすべき」という、一部の都市限定の小さな政府論。

という既成の対立軸とは異なる形で、

▼希望という「一極集中で繁栄する東京」の有権者の「小さな政府論」。

▼立憲民主の場合は、小さな政府論ではないが、都市型という性格を前面に出しており、決してバラマキではない立ち位置。

▼連立与党の場合は、今回は都市や現役世代をターゲットにした「大きな政府論」。

という軸で選挙戦を戦ったのであり、その結果をよく見て行くことは、日本型の小さな政府論が今後も発展していくのか、それとも「大きな政府論」にのまれていくのか、ある種の判断材料にはなるのではないでしょうか。

ところで、毎日新聞が各政党にアンケート調査したところ、「政党の自己イメージを動物に例えると?」という問いに対して、「自民党はゾウ」「立憲民主党はロバ」と答えたそうです。

このゾウというのは米共和党のマスコット、ロバというのは同じく米民主党のマスコットなので、何もそこまでアメリカのマネをして左右対立をやらなくてもいいのに、と思ってしまったのも事実です。

特に、政策的には極めてリベラルで「大きな政府論」丸出しの自民党が、「小さな政府論」の米共和党と同じ「ゾウ」のイメージに自分を重ねているのには違和感があります。また、ヒラリー落選のショックから「自分探し」の混迷の中にある米民主党の「ロバ」に、立憲民主党が自らを例えるというのは、何とも笑えない話です。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、中国製半導体に関税導入へ 適用27年6月に先送

ワールド

トランプ氏、カザフ・ウズベク首脳を来年のG20サミ

ワールド

米司法省、エプスタイン新資料公開 トランプ氏が自家

ワールド

ウクライナ、複数の草案文書準備 代表団協議受けゼレ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 8
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 9
    砂浜に被害者の持ち物が...ユダヤ教の祝祭を血で染め…
  • 10
    楽しい自撮り動画から一転...女性が「凶暴な大型動物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story