コラム

分裂を煽るだけのトランプ「フェニックス居直り演説」

2017年08月25日(金)14時40分

この演説会ですが、そもそもがアリゾナ州選出の2人の共和党上院議員への「あてこすり」が主目的でした。1人はジョン・マケイン議員で、この演説では名前こそ挙げていなかったのですが、「1人の反対でオバマケア廃止代替法が否決された」と激しく罵倒、もう1人のジェフ・フレイク議員については「移民に対して弱腰だ」と批判、特にフレイク議員は2018年に改選を迎えるので、ケリー・ワード氏という州議会議員をトランプ派の刺客として送る構えです。(但し、その場合は中間層の票が民主党に流れて議席を失うという可能性も指摘されています)

つまり大統領がわざわざアリゾナに行ったのは、現職の共和党上院議員の1人を罵倒し、1人を予備選で葬ろうという「議会共和党への宣戦布告」のようなものだったのです。こうした動きに合わせて、ニューヨーク・タイムズ紙は議会共和党のリーダーであるミッチ・マコネル議員が「大統領に対して激怒」という記事を掲載しており、政界には不穏な雰囲気が流れていました。フェニックスでの演説はまさにその「大統領」対「議会共和党」の対決を絵に画いたような構図になっていました。

【参考記事】白人至上主義の扱いめぐり共和党もじわり「トランプ離れ」

その他にも、予算を巡る債務上限議論が物別れになり、仮に政府閉鎖という事態になってもメキシコ国境には壁を作るとか、ヒスパニック系への人権侵害が問題になって有罪判決を受けている元保安官(7月に有罪、10月に量刑言い渡しの予定)について、前例のない大統領による恩赦を検討しているなどという、挑発的な発言が続いたのです。

いずれにしても、一番の問題は「シャーロットビル事件」関連の自身の発言について、都合の悪い部分は「なかったことに」する、つまり全く反省の色を見せなかったという点です。CNNのキャスター、ドン・レモンは「事実を隠す皆既日食発言」だという厳しい批判をしていましたが、大変な問題です。

これによって、中道からリベラルにかけての層では「トランプが大統領として留まるのは許容できない」というムードがより強くなった一方で、トランプ支持者の間では「悪いのは大統領批判をしているメディアであり、秩序を乱す左派のカウンターだ」という「敵味方の論理」が暴走しています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米関税の影響経路を整理、アジアの高関税に警戒=日銀

ビジネス

午後3時のドルは145円前半に小幅安、一時3週間ぶ

ワールド

トランプ氏、公共放送・ラジオ資金削減へ大統領令 偏

ビジネス

英スタンチャート、第1四半期は10%増益 予想上回
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story