コラム

ヒラリー「第二のメール疑惑」の誇大報道

2016年11月01日(火)17時00分

 ある意味で、クリントン家の「一員」として政治の中枢にいた夫妻でしたが、ウィーナーは2011年に突如「下ネタ」ツイート事件を起こしてしまい、議員辞職に追い込まれています。色々な見方ができるとは思うのですが、優秀な妻が世界を駆け回って仕事をしている一方で、その夫の中には「構ってもらえない」とか「俺より目立ちやがって」というダークサイドの心理に翻弄されて「おかしく」なるケースがあるのです。

 ウィーナーの場合もおそらくそうで、不特定多数の女性との間で「不適切な性的ツイート」をやっていたことが明るみに出ました。とにかく、女性たちに送っていたという「パンツ一丁の恥ずかしい写真」がタブロイド紙の一面を連日賑わせるという惨状になってしまったのです。

 ですが、この2011年の段階では、妻のアべディンは「夫を許す」と表明、一部には「モニカ事件の際に夫を許したヒラリー」の例に従ったとか、「だから仮面夫婦だ」などという中傷を受けていますが、とにかく離婚ということにはなりませんでした。

 その後のウィーナーは、2013年のニューヨーク市長選挙に復権をかけて予備選に参戦したのですが、話題にはなったものの支持率は低迷、早々に撤退を余儀なくされています。ただし、この時点ではイメージが好転したということもあり、ニューヨークではラジオや新聞で政治評論家として復権していました。

【参考記事】トランプ「第3次世界大戦」発言の深層にあるもの

 ところが、今年8~9月には再度の「下ネタ」ツイート事件を起こしてしまい、担当していたラジオや新聞から一斉に「クビ」を通告されて、政治家としても、あるいはジャーナリストとしてもキャリアを断たれている形です。

 この時のスキャンダルは、妻の不在時に下着姿を自撮りして、他の女性にツイートしていたというのですが、その写真に、3歳の息子が一緒に写っていたために、社会的に大変な非難を浴びることになりました。それまで夫をかばっていた妻のアベディンも、我慢が限界に来たのか「法律上の別居措置」を取るにいたっています。

 問題は、そこで終わりませんでした。FBIは「ウィーナーは、未成年の少女を相手に下ネタのツイートをしていたらしい」という容疑から本格的な捜査に乗り出したのです。

 今回の問題は、そこから来ています。要するにFBIが「未成年者への不適切ツイート疑惑」を根拠に、ウィーナーのPCを押収した、そのPCにはアベディンとの夫婦間のメールも入っていて、夫婦で共用していたためにアベディンが送受信していたメールもあるというのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日銀が利上げなら「かなり深刻」な景気後退=元IMF

ビジネス

独CPI、4月は2.4%上昇に加速 コア・サービス

ワールド

米英外相、ハマスにガザ停戦案合意呼びかけ 「正しい

ワールド

ウクライナ大統領、武器供与の加速訴え NATO事務
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    ナワリヌイ暗殺は「プーチンの命令ではなかった」米…

  • 10

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story