コラム

ヒラリー対トランプの「ゴシップ合戦」に突入した大統領選

2016年05月17日(火)15時30分

ヒラリーに関しては夫のビルが絡んだゴシップ報道がタブロイド紙を賑わせ始めた Jim Young-REUTERS

 アメリカの大統領選は、ここへ来て「ゴシップ合戦」になっています。まず、共和党のドナルド・トランプ候補に関するネタが、先週から今週にかけて色々と繰り出されてきました。

 話題になったのは、トランプが「自分自身をトランプの企業の広報担当者であると偽装」して、「自分でメディアに電話をかけたり、電話を受けたりしていた」というニュースです。その際トランプは「ジョン・ミラー」とか「ジョン・バロン」という偽名を使っていました。

 特に先週13日に「ワシントン・ポスト」が音声と共に報じた内容は、何とも生々しいと言いますか、露骨そのもので大いに話題になりました。具体的には1991年、当時は大変な人気を誇っていた芸能週刊誌「ピープル」が、トランプの会社に総帥の女性スキャンダルについて取材を申し込んだところ、「ジョン・ミラー」という広報担当者から「折り返しの電話」がかかってきたというものです。

【参考記事】米共和党、トランプ降ろしの最終兵器

 この時の通話を「ピープル」の記者は録音していました。まず「ミラー」は、当時「お騒がせ」となっていた、最初の奥さんのイヴァナさんとの結婚生活が破綻しつつあると語った一方、後に2番目の奥さんとなる女優のマリア・メープルスさんとの交際については「夫人とも良好な関係」だし「マリアさんとも良好」だと断言していました。

 さらに「ウチのボスは、マドンナからもデートしようと言われている」とか、「マリアさんと事実上同棲しているにも関わらず、他にも3人ガールフレンドがいるようだ」などと放言していたのです。

 そのテープの音声ですが、おそらくは磁気によって電話信号を録音したものと思われ、音質は良くないのですが、口調は現在のトランプと同じで、ベラベラ喋っている途中で、急に別の話題に振る時の口グセ「By the way......」を言うところは、完全に「そのもの」でした。

 このテープに関して、トランプはNBCの朝の情報番組「トゥデイ」の電話インタビューでは、「絶対に私ではない」と断言していました。ダメージコントロール上は「そう来たか」と思わせる対応ではあるものの、やはり材料が「面白すぎる」ために、これでメディアは一気にヤル気になったようです。

 週末のメディアでは、「トランプの過去はおそらくは地雷原だろう」などという言い方が幅を利かせていましたし、週明けからはトランプが、男性誌「プレイボーイ」の創業者ヒュー・ヘフナーが「プレイメイト」と呼ぶ「専属モデル」を住まわせていた「プレイボーイクラブ」の常連だったという暴露が始まっています。

 もちろん、こうした「ゴシップ」を攻撃する戦法については、トランプの積極的な支持層には届かないでしょう。そうした層は、広報担当者を騙り、プレイボーイとして浮名を流した「過去」は、むしろ彼のバイタリティであり、さらに「お行儀の良い善人」とは違う「開けっぴろげの魅力」だと考えるからです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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