コラム

民主党予備選、サンダース逆転の秘策はあるのか?

2016年05月10日(火)17時50分

 この「スーパー代議員」というのは、各州予備選の結果に縛られない代議員ということで、具体的には全国および各地の党幹部、そして現職の国会議員などで構成されています。2008年の「オバマ対ヒラリー」の予備選では、この「スーパー代議員の獲得競争」が勝敗に大きな影響を与えたことから、両陣営による支持取り付け合戦が起きました。

 問題は、今回2016年の傾向です。現時点での「スーパー代議員」の獲得数は、「ヒラリー523」に対して「サンダース39」と大差がついています。ということは、このスーパー代議員を除いた「予備選でのプレッジド代議員獲得数」で見てみると、「ヒラリー1705」に対して「サンダース1415」とそんなに差はないのです。

 ここへ来てサンダース陣営は、この「スーパー代議員」について「エスタブリッシュメントの秘密クラブだ」と批判を強めています。つまり500人以上の党幹部が、ヒラリー陣営と談合して「支持表明」をしているが、これは民意とは乖離しているという批判です。

 ただし、正確に言えば「523人のスーパー代議員」はヒラリーの支持を口頭で表明しているだけであり、翻意することも可能は可能です。そこで、サンダース陣営としては、残りの予備選を全力で戦って「ヒラリーを追い詰める」と同時に、自分こそ民意を受けた統一候補だということで、「スーパー代議員に翻意を迫る」というのです。

 もちろん、そんなことをする前に、ヒラリーが予備選で獲得した代議員数を加えて、マジックナンバーの「2383」に到達してしまえば、サンダースは「終わり」になるはずです。ですが、仮にそうなっても、その時点で「予備選で獲得したプレッジド代議員」の数でほぼ拮抗するところまで行けば、「ヒラリーは民意では勝てず、ワシントンとの談合で統一候補の座を獲得した」という批判を止めることはできなくなります。

【参考記事】トランプが大統領でもアジアを手放せないアメリカ

 これは大変に危険な作戦です。共和党のトランプの場合は、党の主流派とケンカして勝ちつつあるものの、党の主流派はまだ胸を張っています。ですが、サンダースのこの作戦では、「スーパー代議員」=「党の全国と地方の組織」の権威を壊してしまう危険があるわけです。そしてそれこそが「政治革命」だと、支持層は盛り上がっています。

 それでもサンダース陣営にとっては、そんなに可能性のある話ではありません。仮に予備選のどこかの時点で、ヒラリーが勢いを取り戻し、マジックナンバー2383を大きく上回ることになれば、サンダースとしては降参するしかなくなります。ですが、現時点での政治的な勢いは逆になっています。共和党に続いて今度は民主党が異常事態に陥る、そんな可能性も否定できないのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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