コラム

安倍政権とアメリカ政治の「ねじれ」に危険性はあるか?

2015年01月29日(木)12時46分

 日本国内での一般的な印象とは異なって、アメリカの左右の対立軸から見ると、安倍政権の政策はハッキリと「リベラル」に属します。

 まず、経済政策上の「アベノミクス」ですが、これはアメリカでは完全に「リベラル政策」になります。自国通貨の価値を下げることをおそれずに流動性を供給してデフレを抑止しようとすること、国土インフラなどの公共投資を積極的に行うこと、こうした姿勢はオバマ政権が2009年に発足して以来、一貫して強く進めてきた政策とピッタリ一致します。

 つまりアベノミクスの「第一の矢」も「第二の矢」もアメリカでは「左派」の政策なのです。野党の共和党は、このいずれの政策にも強く反対してきています。

 では「第三の矢」である規制緩和はどうかというと、この点に関しては確かにアメリカの民主党は規制強化の立場で、共和党が規制反対の立場です。ですが、現在の日本に残る「諸規制」の多くはアメリカのリベラルにも理解できない「極端なもの」ですから、この「第三の矢」もアメリカのリベラルからは全く違和感はないばかりか、日本経済の成長率改善のためには「早く進めて欲しい」という立場です。

 一方で、現在問題になっている「テロとの戦い」に関してはどうでしょう?

 この点については、「共和党の軍事タカ派」の方が熱心であるように見えます。少なくとも、オバマの民主党は「イラク戦争への疑問」という世論を背景に政権交代を実現したわけですし、そのオバマ政権は昨年末にCIAによる拷問行為を暴露した膨大な報告書を公開しました。報告書はネットで公開されているばかりか、全国の書店に積み上げられて販売されています。

 これに対して、ディック・チェイニー前副大統領は、そのような「不必要な情報公開、不必要な反省」はアメリカの安全を損なうとして猛反発。また、今回、安倍首相が中東を訪問した際に会談をしたジョン・マケイン議員なども、この「軍事タカ派」に数えられるでしょう。マケイン議員は、シリアへの介入を早期から強く主張した人物に他なりません。

 ですが、実はこうした「軍事タカ派」というのは、現在の共和党では旧世代に属します。例えばリバタリアン(政府の極小化)に属するランド・ポール議員(上院、ケンタッキー選出)などは、「アメリカとは無関係な局所的な紛争への介入には反対」という立場であり、ISILへの空爆に関しても決定のプロセスに異議を唱えているのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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