コラム

松坂大輔は投げ込みで復活するか?

2009年08月11日(火)15時00分

 ボストン・レッドソックスの松坂大輔投手はかなり難しい立場に追い込まれています。メジャー移籍後最初の2年間は、「15勝12敗」、「18勝3敗」と順調に成績を伸ばしてきたのですが、今シーズンは8試合に登板して1勝5敗という成績に止まっています。しかもその内容が良くありません。8試合で35イニングを投げて自責点が32、昨年は29試合に投げて自責点が54だったことを考えると別人のようです。

 その結果として、現在は60日間の故障者リストに入っており、最短でも8月下旬にならないと1軍登録はできないという状況です。公式発表としては「軽い肩の炎症」ということになっていますが、実際は具体的な故障ではなく、極端な不振からどう復活するかが問われている、そんな厳しい立場です。

 松坂投手の立場を悪くしているのは、練習方法の問題です。入団以来、そしてWBCのあった今年の春先、そして不調に陥った以降の状況で、一貫して松坂投手は「十分な投げ込みをしたい」と主張し、これに対してレッドソックス球団は「投球数の制限」を課してきています。そんな中、松坂投手がふと日本メディアに漏らした投球数規制への不満のコメントが、英語に翻訳されてボストンの街を駆けめぐった結果、「カネを返して日本へ帰れ」などという罵声を浴びることにもなっています。

 松坂投手の立場は簡単です。「自分は投げ込みで肩を作ってきたので、自由に練習させて欲しい」というのですが、これに対して球団側は「肩は消耗品。高額なポスティング(入札)料と年俸を払う以上は球数制限は当然」という主張にこだわって対立がくすぶっているのです。では、松坂投手は本人の望むような「投げ込み」を行えば復活できるのでしょうか?

 私の答はノーです。確かに松坂投手の場合は「投げ込みの球数が自信につながる」というメンタルな面は大きいと思います。ですから多少の投げ込みは必要ですし、球数制限が余りにも厳しいようでしたら言い分は言っていって構わないように思います。ですが、問題はもう少し大きなところにあるようです。

 それは、アメリカの野球環境への適応という意味でカベにぶち当たっているということです。似たような例は、メッツ時代の松井稼頭央選手にも見られます。そして松井稼頭央選手がそのカベを乗り越えて、コロラド・ロッキーズで優勝に貢献し、更にアストロズでレギュラーの座を守っているように、このカベは克服が可能だと思います。松坂投手の場合は入団条件が特別であっただけに、移籍で心機一転という手段は取れませんが、ファンや同僚選手、あるいは監督やコーチとのコミュニケーションを徹底することで乗り越えることはできると思います。

 何といっても、相手のバッターを研究し、サッカーのような言い方になりますが、1対1の勝負で競り負けないことです。そして、味方の守備や攻撃とリズムを合わせてゆくこと、そしてファンを味方につけることです。これだけで、メンタルな面はグッと楽になると思います。そうすれば、ムダなボール玉を投げ込んで不利なカウントで勝負をさせられることも減るでしょう。気がつくと、昨年以上にドンドン勝てるようになるのではないでしょうか。

(編集部からのお知らせ:編集部夏期休暇のため、ブログ更新は来週17日(月)までお休みします)

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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