コラム

白雪姫を「禁書」にする共産党の危機感

2017年03月17日(金)14時40分

<西側の価値観の流入を防ぐため、中国政府は子供向けの外国製書籍の販売を規制する通達を出した。思想統制はますます強化されている>

まもなく赤ちゃんが生まれる中国のお父さんお母さん! 輸入物の粉ミルクとオムツだけでなく、外国製の子供の読み物を買いだめしたほうがいい。なぜか。これらの本はもうすぐ読めなくなるからだ。

児童書は中国の書籍市場の中でもっとも良く売れているジャンルだ。しかし品質がいい中国語の優良書はとても少なく、それゆえ中国の出版社は海外の子供向け書籍を大量に買い付けている。

中国の若いお父さんお母さんの多くが、子供に外国絵本だけを読ませる。子供も外国絵本が大好きで、その結果イギリスやアメリカ、日本といった国の価値観が知らず知らずのうちに子供に浸透しているが、親たちはこういった外国絵本が子供たちの心をより美しくしてくれる、と感謝している。

しかし、最近ネット上で伝わった禁止令はこういった親たちを驚愕させ、「移民が必要かどうか」という議論がまた新たに始まった。

政府内部の事情を知る人物がリークしたところによると、中国の規制当局は外国思想の浸透を規制し、イデオロギーのコントロールを強化するため、すでに外国の子供向け書物を制限する決定を通達した。今後、中国で出版される子供向け外国書籍は年数千冊からを数百冊に減らされる。

興味深いことに、この命令は書面化されておらず、公開文書もない。口頭で伝達されただけなので、メディアはその根拠を手に入れることができない。消費者にすれば、減ったことを実感して初めて事実を確認できる、というわけだ。しかし、ネット上には、今後いかなる外国の児童書ももう出版できない事態を嘆き悲しんでいる出版社の編集者が存在している。

外国児童書の翻訳出版だけでなく、販売網に対するより厳しい管理も始まった。中国のネット販売大手「淘宝網(タオバオワン)」は、3月10日からいかなる売り手が淘宝網で外国出版物の代理購入サービスを行うことも禁止する、と発表した。

ネットユーザーはこう皮肉る。「われわれは数年早く生まれてよかった。さもなければ白雪姫もピノキオも、ハリーポッターもすべて読めなかったのだから」

共産党当局はどうしてこんなことをしたのだろうか。彼らは西側の価値観流入を防ぐためには、子供の思想コントロールから始めなければならない、と気付いたのだ。昨年末、中国はすでに私立小・中学校の国際コースに対するコントロールを始め、その教育が「しっかりと国家主権とイデオロギーを押さえなければならない」と提起した。

外国移住したくない中産階級の保護者たちが子供を教育費が高額な私立学校に送り込むのは、公立学校による政治教育の洗脳を免れるためだ。しかし共産党のコントロールに対する欲望は尽きることがない。共産党化教育は一歩ずつ、抵抗を試みるあらゆる領域に浸透しようとしている。

昨年、中国教育部の袁貴仁部長(大臣)は「西側の価値観に基づく教材が教室に入ることを決して許さない」と決意を表明した。このような発言を聞くと、私は全身に寒毛を覚える。中国の未来はどうなるのか、と。現在、身を切るような寒気が音もたてず、あちらこちらに広がっている。いかに鈍い人でも、厳冬がもうすぐ到来すると感じているだろう。

プロフィール

辣椒(ラージャオ、王立銘)

風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

スウェーデン、ウクライナに戦闘機「グリペン」輸出へ

ワールド

イスラエル首相、ガザでのトルコ治安部隊関与に反対示

ビジネス

メタ、AI部門で約600人削減を計画=報道

ワールド

イスラエル議会、ヨルダン川西岸併合に向けた法案を承
今、あなたにオススメ
>
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺している動物は?
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 6
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 9
    国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の…
  • 10
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 6
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 9
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 10
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story