コラム

南シナ海、強引に国際秩序を変えようとする中国

2016年05月02日(月)18時00分

 先の、中ロ印外相会談に合わせて行われた二国間外相会談において、「南シナ海問題の国際化に反対」したのは、ロシアのラブロフ外相である。ヨーロッパ各国が「ロシアによる実質的な軍事侵攻」と言うウクライナ問題も、国際化されるとロシアには不利だ。さらには、アジアで新しいゲームを続けるために、中国の支持者を演じる必要もある。

 一方で、中国メディアの報道を見る限り、インドのスワラージ外相が、「南シナ海問題の国際化」に反対したということはない。この辺り、中国メディアも正直である。インドは、一般論として、「国際法に則って問題を解決すべき」と述べたのである。

 インドは、中国を支持するどころか、米国との間で、中国けん制のための協力を強化している。中ロ印外相会談に先立つ4月12日、パリカル印国防大臣は、インドを訪問中のカーター米国防長官と会談し、中国による南シナ海の軍事拠点化をけん制するため、後方支援など補給支援協定を結ぶことで大筋合意したのだ。さらに、戦闘機のエンジンや空母の生産技術の移転でも協力する方向で協議を続けることも合意された。強力な安全保障協力である。

 この米印安全保障協力からインドが得られる利益は計り知れない。インドの安全保障環境を安定させるだけでなく、インドでも開発製造が難しい、航空エンジンや空母の生産技術の移転が含まれるからだ。インドは、米中対峙の状況を利用して、自国の利益を最大化しようとするのである。中国は、インドが中国の支持者であると考えていると痛いしっぺ返しを食らうことになる。中国も、本気で信じてはいないだろうが。

 同様の状況は、東南アジア地域にも見て取れる。中国の王毅外交部長は、4月21〜23日の間、ブルネイ、カンボジア、ラオス三カ国を歴訪し、南シナ海における中国の立場に理解を求めた。

 ここでも、中国メディアは、「ASEAN三カ国が公に南シナ海における中国の立場を支持、日米の陰謀が阻止される」と、高らかに勝利を謳い上げた。ブルネイは、中国、ベトナム、フィリピン、マレーシア、台湾と排他的経済水域の領界等をめぐって争っているが、実効支配している島嶼や岩礁等はない。カンボジア及びラオスは、南シナ海問題に関与していない。

 現段階では、これら三カ国は、南シナ海問題で中国を批判しても得られるものはないのである。他のASEAN諸国も、単純に親米か親中で区分される訳ではない。それぞれに、現在の状況の中で、自国の利益を最大限にしようとしているのだ。

問われる国連の存在意義

 中国は、国際社会の秩序を変えようとする以上、例え、絶対的なものでなくとも、これら国家の支持を必要とする。その中国が、国連安保理常任理事国であることを強調するのは、自らに国際社会の秩序を変える権利があるとする根拠を示したいからだ。

 習近平主席や王毅外交部長が、北朝鮮に対する国連制裁決議に関して、「中国は、国連安保理常任理事国として、制裁を完全に履行する責任と能力を有している」と、「国連安保理常任理事国である」ことを強調するのは、中国が第2次世界大戦の戦勝国であり、国際秩序形成に関わる正統性を誇示することでもある。

 第2次世界大戦の戦勝国から形成される国連安保理常任理事国とは異なる枠組みとなるG7(先進7カ国)に対して警戒感を露わにするのは、中国が国際秩序形成に関わることを否定されていると考えるからだ。中国は、心情的にも、戦勝国として国際社会から尊重されたいと考えているし、現実的にも、中国にとって有利な国際秩序を形成できなければ経済発展の継続はおぼつかないと考えるのである。

プロフィール

小原凡司

笹川平和財団特任研究員・元駐中国防衛駐在官
1963年生まれ。1985年防衛大学校卒業、1998年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。安全保障情報を扱う「IHSジェーンズ」のアナリスト・ビジネスデベロップメントマネージャー、東京財団研究員などを経て、2017年6月から現職。近著『曲がり角に立つ中国:トランプ政権と日中関係のゆくえ』(NTT出版、共著者・日本エネルギー経済研究所豊田正和理事長)の他、『何が戦争を止めるのか』(ディスカバー・トゥエンティワン)、『中国の軍事戦略』(東洋経済新報社)、『中国軍の実態 習近平の野望と軍拡の脅威 Wedgeセレクション』(共著、ウェッジ)、『軍事大国・中国の正体』(徳間書店)など著書多数。

筆者の過去記事はこちら

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