コラム

アベノミクスが雇用改善に寄与した根拠

2017年10月13日(金)16時30分

visualspace-iStock

<アベノミクスをどう評価するかが、今回の衆院選の争点の一つになっている。日本の雇用状況がアベノミクスの発動を契機として顕著に改善したことは明らかであるが、批判的な論者は、そう考えてはいない。真実は果たしてどちらにあるのか>

解散総選挙によって、これまでの安倍政権の4年半にわたる経済政策すなわちアベノミクスをどう評価するのかが、改めて争点の一つになっている。

第2次安倍政権が、持続的な景気回復を曲がりなりにも実現させてきたことについては、政権側も政権批判側もほとんど異論はないであろう。確かに、アベノミクスが本来その目標としてきたはずのデフレ脱却は、未だに完遂されてはいない。しかしながら、バブル崩壊後の1990年代以来20年間以上にわたって続いてきた日本経済の収縮トレンドからの反転は、この4年半の間に着実に実現されてきた。それはとりわけ、雇用についてより明確にいえる。

日本の完全失業率は、1950年代から1980年代までは、円高不況のピークであった1987年を除けば、どのように厳しい不況期でも3%台まで上昇することはなかった。しかし、バブルのピークであった1990年には2%程度であった完全失業率は、バブル崩壊後からは徐々に上昇し、1994年後半には遂に3%台に突入した。完全失業率はその後も上昇し続け、ITドットコムバブル崩壊後の2001〜2003年とリーマン・ショック後の2009〜2010年には5%台にまで達した。

つまり、1994年後半以降の日本経済は、2%台の完全失業率に留まっていたことは一度もなく、3%台から5%台という、1980年代以前にはあり得なかった「高失業」状態に甘んじていたのである。それが、アベノミクス5年目の2017年には、ほぼ20年ぶりの「2%台の完全失業率」が実現された。

また、有効求職者数に対する有効求人数の比率である有効求人倍率は、2017年には1.5を越え始めるようになった。これは、高度経済成長の余韻が残っていた1970年代初頭以来のことである。

以上のように、少なくとも完全失業率や有効求人倍率の数値を見る限りは、日本経済の雇用状況がアベノミクスの発動を契機として顕著に改善したことは明らかである。

しかしながら、アベノミクスに批判的な論者たちは、まったくそう考えてはいない。彼らはしばしば、「完全失業率は第2次安倍政権の前の民主党政権の時期から既にトレンドとして低下していた」とか、「雇用状況が改善したとしても、それは主に団塊世代の退職などに伴う労働力の減少によるもの」と主張する。そして、そのことを根拠として、アベノミクスが雇用の改善に結びついたという見方を敢然と否定する。真実は果たしてどちらの側にあるのであろうか。

労働需要だけではなく労働供給も増やしたアベノミクス

この両者の見方のどちらが正しいのかを判断するためには、単に完全失業率だけではなく、その推移を「生産年齢人口」「労働力人口」「就業者数」といった数字と照らし合わせてみることが必要になる。

プロフィール

野口旭

1958年生まれ。東京大学経済学部卒業。
同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。専修大学助教授等を経て、1997年から専修大学経済学部教授。専門は国際経済、マクロ経済、経済政策。『エコノミストたちの歪んだ水晶玉』(東洋経済新報社)、『グローバル経済を学ぶ』(ちくま新書)、『経済政策形成の研究』(編著、ナカニシヤ出版)、『世界は危機を克服する―ケインズ主義2.0』(東洋経済新報社)、『アベノミクスが変えた日本経済』 (ちくま新書)、など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

グーグル、ドイツで過去最大の投資発表へ

ワールド

マクロスコープ:高市「会議」にリフレ派続々、財務省

ビジネス

ドイツ鉱工業生産、9月は前月比+1.3% 予想を大

ビジネス

日産、通期純損益予想を再び見送り 4━9月期は22
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイロットが撮影した「幻想的な光景」がSNSで話題に
  • 4
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 5
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 6
    カナダ、インドからの留学申請74%を却下...大幅上昇…
  • 7
    もはや大卒に何の意味が? 借金して大学を出ても「商…
  • 8
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story