最新記事
シリーズ日本再発見

「カジノ法案」で日本への観光客は本当に増えるのか

2017年01月13日(金)15時38分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

 カジノには抵抗感があるが、MICE招致は大歓迎という人は多いのではないだろうか。そのジレンマを象徴するのが沖縄県だ。観光を主要産業とする同県では国内自治体の中でも早い段階から検討を進めてきたが、2016年秋、カジノ抜きでのMICE振興施策を県観光振興基本計画に盛り込む方針を固めた。カジノは要らないが商用観光客は欲しいという悩ましい思いが透けて見える。

【参考記事】統合型リゾートというビジネスは、どうして成熟国の大都市向けではないのか?

依存症対策を持たない「ギャンブル大国・日本」

 カジノへの抵抗感はなぜこれほどまでに強いのか。ギャンブル依存症患者の増加や治安の悪化に対する懸念が主な要因となっている。

 反対派が取り上げる事例の代表格は、韓国唯一の自国民向けカジノ、カンウォンランドだ。質屋と消費者金融が立ち並ぶ、荒廃した街の姿が紹介されてきた。

 この点について岩屋議員は著書で次のように主張する。競馬、競艇、競輪、オートレースなどの公営ギャンブル。法的にはギャンブルとは認めていない「遊技場」のパチンコ店。そして宝くじ。「カジノを解禁する前から日本はある意味で『ギャンブル大国』なのです」(前掲書「3 ギャンブル依存症対策」より)

 パチンコやパチスロを計算に入れると、世界のギャンブル機器の6割は日本に存在しているという。

 ラスベガスやシンガポールなど他国では啓蒙活動や治療支援などの依存症対策がとられてきたが、「ギャンブル大国・日本」では体系的な対策は皆無。カジノ解禁を機にパチンコなど既存のギャンブルのユーザーを視野に入れた対策を導入するべきだと訴えている。

 賛否が分かれるカジノ解禁だが、既存ギャンブルの依存症患者に対策の必要性には異論がないのではないだろうか。

そもそも、カジノは本当に儲かるの?

 IR法案に関する議論では依存症対策や治安にばかり注目が集まっていた印象があるが、もう一つ気になる点がある。それは"カジノは本当に儲かるのか?"という素朴な疑問だ。

 大和総研の米川誠氏の試算によると、年間1兆9800億円の経済波及効果が予測されるという。付加価値誘発額は1兆1400億円、GDPの0.2%に相当する(「IR構想の実現がもたらす経済波及効果」『週刊金融財政事情』、2016年12月19日)。

 ただし、この試算は日本で3カ所のIRが開業し、シンガポール並みの収益をあげたことを前提としており、入場客数が想定を下回れば、当然それだけ経済波及効果も失われることになる。

 不安を助長するのがマカオ、シンガポールのカジノ売り上げの低迷だ。カジノ売り上げ世界一のマカオだが、2013年をピークに減少に転じた。2015年の売り上げは290億ドル、前年比34%と激減だった。日本のIRのモデルとされるシンガポールも、2010年の解禁以来カジノは売り上げを伸ばし続けてきたが、2015年は前年比13%減の約50億9000万ドルにまで落ち込んでいる(それぞれマカオ統計局、シンガポール統計局のウェブサイトより)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエルがイラン再攻撃計画か、トランプ氏に説明へ

ワールド

プーチン氏のウクライナ占領目標は不変、米情報機関が

ビジネス

マスク氏資産、初の7000億ドル超え 巨額報酬認め

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 8
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中