最新記事
シリーズ日本再発見

働かせ過ぎる日本の会社に、2つの提案がある

2021年11月22日(月)11時00分
高野智宏
長時間労働

IPGGutenbergUKLtd-iStock.

<日本人は「働き過ぎ」と言われるが、社員に「有給を取れ」と言うだけでなく、企業ができることがあるのではないか。経済アナリストの森永卓郎氏とSF作家の筒井康隆氏に聞いた>

高度経済成長期の「モーレツ社員」ではないが、半世紀を過ぎた今なお、日本人には「働き過ぎ」のイメージが強い。

転職サイト「doda」の2020年4~6月の調査によれば、残業時間は月平均で20.6時間とのことだが、この数字を実態より少ないと感じる人は多いのではないか。過労死や自殺をした人の残業時間が100時間を超えていたというニュースが珍しくない現状も、その印象に輪をかけているかもしれない。

2年に及ぼうとするコロナ禍は、一部で営業職などの時間外労働を減らしたとの指摘があるが、逆に長時間労働に拍車をかけていると懸念する声もある。自宅でのテレワークではオンとオフの境目を付けづらく、特に仕事部屋を確保できない人から「うまく集中できないから、だらだらと業務を続けてしまう」という声も多く聞く。

日本人の「働き過ぎ」問題――いったい、どうすれば改善できるだろうか。多くのメディアで活躍する、獨協大学教授で経済アナリストの森永卓郎氏に聞いた。

森永氏はまず、長時間労働が是正されていない現状に苦言を呈する。その一例として挙げるのは、2019年から施行された「働き方改革関連法」の目玉のひとつ、「年5日以上の有給休暇取得の義務化」だ。

日本の有給消化率約45%(世界16カ国の平均は約63%)というデータを挙げ、「義務付けられた5日間の有給が消化できているとは思えない」と森永氏は言う。「テレワークによるさらなる長時間労働化もあり、いま日本人は『無制限労働』を課されていると言ってもいい......長引くコロナ禍でさらに労働環境が悪化していることは否めません」

休みなく長時間働いても、それに見合う給与を得られているわけではない。日本の賃金は約30年間にわたり低空飛行を続けており、生産性の低さもよく指摘されるところだ。森永氏も「日本の実質賃金は30年前まではG7でもトップだった。しかし、その後、金額は横ばいを続け、今ではぶっちぎりの最下位」と嘆く。

「しかも残業代の基準である時間外割増率は基本給の25%と、世界標準の50%に遠く及びません(ただし月間60時間以上は50%)。企業の規模を問わず、いち早く世界標準同様に引き上げるべきです」

必要なのは「自由な裁量」と「休憩」

こんな状況では、従業員の働く意欲も減退してしまうだろう。そこで森永氏は、労働環境を改善するひとつの手段として「裁量労働制の導入」を提案する。「企業は社員に自由な裁量を与えるべきです」

その原点には、1991年に入社したシンクタンク、三和総研(現・三菱UFJリサーチ&コンサルティング)時代の経験があるという。論文執筆などに時間がかかるうえ、就業時間外での研究に関する調査や活動も多く、就業時間と給与のバランスが不均衡な仕事だった。

「ただ、僕らは研究がしたくて入所しましたし、好きな研究をしている時間はまったく苦にならない。そこで僕は労働基準監督署へ申請し、業界初となる裁量労働制の導入を許可してもらった。これにより、研究所へ顔を出さなくてもよくなったし、存分に研究に打ち込めた。成果を出せばその分、給与にも反映された。僕をはじめ研究者には最適な労働環境でした」

確かに、好きなことをしている時間は苦にならないだろう。働く個人としては、環境を変えるために転職するという手もあるが、企業側には、裁量労働制などに労働形態を変えることを考えてもらいたいところだ。

また、労働時間の長さそのものの是正に加え、仕事の効率や質を上げるうえでは、休憩ができる環境を整えることも欠かせない。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

小林氏が総裁選へ正式出馬表明、時限的定率減税や太陽

ワールド

アルゼンチン予算案、財政均衡に重点 選挙控え社会保

ワールド

タイ新首相、通貨高問題で緊急対応必要と表明

ワールド

米政権、コロンビアやベネズエラを麻薬対策失敗国に指
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中