最新記事
シリーズ日本再発見

夏に初詣も!? 御朱印ブームだけじゃない神社界の新潮流

2017年07月06日(木)11時50分
石﨑貴比古(神主ライター)

神社の行事は、氏子や崇敬者からの初穂料という形の金銭をお納めいただいて運営されるのが常道だ。氏子とは氏神に対する概念で、血縁的共同体が同一の神を祖と崇めることに端を発するが、現在はいわゆる産土神(うぶすながみ)という概念との混同が進み、特定の神社とその神様が守るエリアに住まう人々を呼ぶ名称となっている。

すなわち、インターネットの普及により、規模が大きくない神社でもその取り組みの魅力によって「ファン」を獲得できれば全国、あるいは世界から資金を得ることができる時代になったと言える。「資金」と書くと生臭く聞こえるかもしれないが、時に文化財に指定される古い建築物や大木が生い茂る境内の景観を維持するには、小銭の賽銭だけでは不可能なことは社会人なら容易に想像できるだろう。

【参考記事】沖縄の護国神社(1)

女性をターゲットとする取り組みが奏功

いわゆる神社ブームは、女性をターゲットとする神社側の取り組みが功を奏して続いているように思える部分がある。例えば都内では、飯田橋の東京大神宮が女性向け雑誌などに「縁結びの神社」として多数取り上げられ、平日から参拝客が後を絶たない。

同大神宮は大正天皇が皇室で初めて宮中賢所で婚儀を行ったことを記念して一般向けの神前結婚式を創始した神社として知られ、年間600組ものカップルが誕生する。隣接する式場・マツヤサロンでは和の風情を取り入れた披露宴を行えることで不動の人気を得ており、雑誌『日本の結婚式』でもたびたび大きく紹介されている。

japan170706-2b.jpg

東京大神宮で行われる神前結婚式の様子(写真提供:東京大神宮)

また、女性に人気の神社としては山形県南陽市の熊野大社がある。同社では本殿裏に3羽のうさぎが隠し彫りされていることにちなみ、2011年から毎月1回満月の夜に「月結び」と題した縁結び祈願を行っている。

参列者には限定の「たまゆら守」なるかわいらしいお守りが授与されるほか、特製のロゼワインを御神酒としていただくことができる。西洋でロゼワインのグラスに月を映すと恋が成就するという言い伝えにちなんだものだ。行事を発案・企画した権禰宜の北野淑人さんはこう語る。

「当時から3羽のうさぎを探しにお若い世代の方がたくさん来られていましたから、せっかくの機会なので職員が神社の説明をさせていただいていました。参拝者とお話する中で印象的だったのが、多くの方がご縁を求めているけれど、なかなか巡り会えていないこと。明らかに皆さんは縁結びのご利益を求めていました。ならば皆様に満足いただけるような神事を執り行うべきだと考えたのが月結びを始めたきっかけです」

japan170706-3.jpg

「月結び」の行事限定で授与される「たまゆら守」(写真提供:熊野大社)

月によってばらつきはあるものの、参加者は毎回150名前後。夏には200名を超えることもある。9割が女性だが最近では男女での参加も増加中。年齢は30代が多い。

「参加されて、ご縁が結ばれたご報告を数多くいただいています。最近では相手の方と月結びに参加される方が増えているように感じますし、その後当社で結婚式を執り行っていただいた方もたくさんいらっしゃいます」

統一感のあるデザインで神社をプロデュース

一方、昨年12月に「川越氷川祭の山車行事」を含む33件の「山・鉾・屋台行事」がユネスコ無形文化遺産に登録された川越氷川神社(埼玉県川越市)は、絢爛な祭礼文化を継承する一方で、デザインコンシャスな取り組みで注目を集めている。

まず当神社のウェブサイトは「赤い糸」を思わせる線文字によるかわいらしいイラストにより全ページがデザインされており、写真中心の構成が多い他の神社とは一線を画している。

また、NHKの大人気子ども番組『みいつけた!』のアートディレクションを手がける大塚いちおデザインによる絵馬は、なんとも言えない「ゆるかわ」感が大好評。他にも、併設される氷川会館の中にある「むすびcafé」は内装を家具デザイナーの小泉誠、グラフィック全般を折形デザイン研究所の山口信博が監修するなど、境内や授与品、神社のコンセプト全体が統一感のあるデザインでプロデュースされている。

そしてそれは視覚的な効果に留まらず、神道に特徴的な「むすび」の観念や「神饌(しんせん)」に見られる食物を大切にする文化などを発信する取り組みにも昇華されている点が特筆される。 

【参考記事】「あの時代」と今を繋ぐ 旧日本領の鳥居

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米小売売上高、5月ー0.9%で予想以上の減少 コア

ビジネス

日産、3代目「リーフ」を米で今秋発売 航続距離など

ワールド

ロシア安保高官が今月2回目の訪朝、金総書記と会談 

ビジネス

アングル:日銀、経済下押しの程度を注視 年内利上げ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越しに見た「守り神」の正体
  • 4
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 7
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 8
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 9
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 10
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 3
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 4
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 8
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中