最新記事
シリーズ日本再発見

ニッポン名物の満員電車は「自然となくなります」

2016年10月24日(月)15時50分
小川裕夫(ライター)

REUTERS

<小池都知事は選挙公約に「満員電車の解消」を掲げていたが、奇抜な策を取らずとも、実は満員電車はなくなりつつある。混雑緩和をさらに推し進める対策は、これからはハードよりもソフトだ> (写真は1999年、この当時と比べて混雑度はすでに緩和されている)

【シリーズ】日本再発見「日本ならではの『ルール』が変わる?」

 満員電車がなくなる――小池百合子新都知事は、先の選挙公約のひとつに「満員電車の解消」を掲げていた。築地市場の移転や東京オリンピック開催費をめぐる話題に隠れがちだが、満員電車対策は私たちの日々の生活に直結する問題だけに、その提案に賛意を示した人は少なくない。

 満員電車はニッポン名物。なかでも東京圏における通勤ラッシュ時間帯の混雑は日本でも指折りだから、東京名物だ。通勤ラッシュ時における満員電車は日本独特のものではないが、寿司詰め状態の電車がひっきりなしに行き交う東京の朝の光景は、他国の人間から見れば異様にも映るだろう。

 満員電車がなくなれば、通勤地獄から解放される。一刻も早く満員電車をなくしてほしい。それは、東京で働くビジネスマン全員の願望といえるかもしれない。

【参考記事】小池都知事:クリーンな東京五輪を実現するために
【参考記事】2020年東京オリンピック、問題山積の公共交通機関

 だが現実にそんなことが可能なのだろうか。そもそも、いくら絶大な権力を持つ都知事といえども、鉄道会社の経営者でもない人間が「満員電車をなくす!」と主張したところで、本当に満員電車はなくなるのだろうか?

 東京都のリーダーである小池都知事が満員電車の根絶に力を発揮できるとしたら、まず何よりも東京都が運行する交通局になるだろう。

 東京都交通局は都電・都バス・地下鉄などを運行する交通事業者だが、満員電車となると都営地下鉄の浅草線・三田線・新宿線・大江戸線の4路線がまず思い浮かぶ。2015年度、都営地下鉄でもっとも混雑したのは大江戸線の中井駅→東中野駅間(※矢印は行先)で、7時50分~8時50分までの時間帯が混雑率153%となっている。

 そのほか、東京都は東京に張り巡らされたもう一つの地下鉄網、東京メトロの筆頭株主でもあるから、東京メトロの混雑対策にも小池都知事の意向は反映される可能性はあるだろう。

200%の混雑率が名古屋・大阪では130~140%まで低下

 とはいえ、実は小池都知事が「満員電車をなくす!」と選挙で訴えるずっと前から、東京圏における鉄道各線の混雑率は減少しつづけてきた。満員電車は現実に"なくなりつつある"のだ。

 混雑率が下がった背景には、鉄道各社が奇抜な対策ではなく、輸送力の強化に地道に取り組んできたことが挙げられる。

 東京の代表的な路線でもあるJR山手線は、1971年にすべての電車が10両編成になり、1991年には11両編成化している。このほか、鉄道各社は運転本数を増やすために複線を複々線へと切り替えたり、事故による遅延を減らすために踏切をなくすといった連続立体交差化事業にも着手している。そうした取り組みは、着実に成果を挙げてきた。

japan161024-2.jpg

東京大学の須田義大教授によって開発された移動式ホームドア「どこでも柵」。入線してくる車両のタイプを事前に察知してホームドアが移動するため、車両のドアの位置や数に関わらずホームドアの設置が可能となる。西武鉄道新所沢駅で実証実験を経て、現在は実用化に向けた研究が進められている。ホームドアは駅の安全対策として導入が進められているが、それが事故による遅延を減らし、混雑率を下げることにもつながる(撮影:筆者)

 毎年、国土交通省鉄道局都市鉄道政策課は東京・名古屋・大阪の三大都市圏の混雑率を調査し、公表している。その統計によると、昭和50年代(1970年代後半~80年代前半)の三大都市圏は200%を超える混雑率だった。

 それが年を追うごとに混雑率は下がっていく。2003年頃から三大都市圏の混雑率の減少は鈍化しているが、その後も混雑率は微減もしくは横ばいを保っている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中