コラム

世界で不気味に暗躍する「次のアルカイダ」

2011年04月15日(金)21時05分

 最近になってまた、「第2のアルカイダ」と呼ばれるイスラム過激派組織の名前をメディアでよく目にする。ラシュカレ・トイバ(LeT)だ。
 
 LeTといえば、08年11月の「ムンバイ同時多発テロ」で過去に例のない市街戦型テロを実行したパキスタンの組織。重武装したLeTのメンバー10人がインド最大の商業都市ムンバイの主要駅や高級ホテルを襲撃して3日間ホテルに篭城、166人の犠牲者を出した。LeTは、組織の弱体化が著しい国際テロ組織アルカイダの「後継者」とばかりに、「国際テロ組織」であることを見せつけた。
 
 ロバート・ウィラード米太平洋軍司令官(海軍大将)は4月11日、米上院の公聴会で、LeTが世界各地で暗躍していると警告した。「彼らは欧米とアメリカにジハード(聖戦)を宣言している」
 
 米政府は、LeTに対する警戒を続けている。1月27日、パキスタンのラホールでCIA工作員レイモンド・デービスが、車を運転中に近づいてきたパキスタン人2人を銃殺し、当局に逮捕された。米政府はデービスが領事館の事務職員であり、外交特権があると主張して釈放するよう要求。だが彼がCIAの工作員だったことを分かっていたパキスタン当局は、彼の活動についてできる限りを聞き出そうとした。
 
 デービスの任務は、LeTへの監視だった。LeTの創設者ハフィズ・サイードの動きを監視し、LeTにスパイを潜入させようとしていたのだ。そして2010年5月まで米国家情報長官を務めたデニス・ブレアがかつて、「世界に対する現時点で最大の脅威だ」と指摘したLeTの動きをつかもうと工作を続けていた。
 
 LeTに関して特筆すべきは、このテロ組織がパキスタン軍の庇護の下に活動していること。もともとパキスタンの情報機関である軍統合情報局(ISI)がライバルの隣国インドに対抗するために設立に関わり、現在でも「共闘」関係にある。米政府がテロ組織に指定しても、ISIのおかげで、今も国内で公然と活動を続けている。
 
 それでもムンバイテロでメンバーがインド当局に拘束されてからは、目立たないように次のテロに向けた準備を進めている。パキスタン北西部で新規メンバーをリクルートしたり、インド南部のケララ州ではLeTのリクルートが行われていて数十人が逮捕されている。09年にはデンマークでのテロ計画が発覚。今年3月からインドで行われたクリケットのワールドカップでも、LeTのテロ計画が当局によって阻止されている。さらに、今年3月にフロリダ州でキリスト教牧師がコーラン(イスラム教の聖典)を燃やした時、LeTはこの牧師の殺害するようファトワ(宗教令)を出し、彼の首に240万ドルの賞金を出すと発表した。米政府がその動きを注視するのも分かる。
 
 ムンバイテロでは、実行犯の中で唯一、パキスタン人のアジマル・カサブが生きたまま拘束された。カサブは、彼が参加したムンバイテロ作戦に向けた特殊訓練には、実行犯10人以外にも20人ほどが参加していたと自供している。彼らは今、どこで何を企てているのか。別件で逮捕された他のLeTメンバーのコンピューターからは、テロの標的として世界の300カ所以上がリストアップされていた。
 
 再びその動きが伝えられるようになってきたLeT。創設者サイードは今も、金曜日にはモスク(イスラム礼拝所)で説教を行い、反米・反インド感情を煽る。メンバーと資金は十分だ。欧米のメディアで「ムンバイ型テロ」という言葉を定着させた彼らは、次に何を引き起こすのだろうか。

──編集部・山田敏弘

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英中銀、政策金利据え置き 労働市場低迷とエネ価格上

ワールド

中ロ首脳が電話会談、イスラエルのイラン攻撃を非難

ビジネス

台湾中銀、政策金利据え置き 年内の利下げ示唆せず

ビジネス

ECB、政策変更なら利下げの可能性高い=仏中銀総裁
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 2
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越しに見た「守り神」の正体
  • 3
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディズニー・ワールドで1日遊ぶための費用が「高すぎる」と話題に
  • 4
    マスクが「時代遅れ」と呼んだ有人戦闘機F-35は、イ…
  • 5
    下品すぎる...法廷に現れた「胸元に視線集中」の過激…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 8
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 9
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 10
    電光石火でイラン上空の制空権を奪取! 装備と戦略…
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越しに見た「守り神」の正体
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 7
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 10
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 5
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 6
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 7
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story