コラム

TOEIC SWテストを受けてみた

2010年11月22日(月)11時38分

 この夏、10数年前のアメリカ留学時代にお世話になった先生が、研究のために2カ月ほど日本に滞在した。久々の再会を喜び、積もる話に花が咲いた......のは近況報告や雑談をしている間のこと。代理で借りておいたウィークリーマンションの契約の詳細や、円高ドル安の影響に話が及ぶと、あれ、おかしいな、思ったように英語が出てこない......。

 ニューズウィーク日本版の編集者という仕事柄、英語は得意だと思われがちだし、実際、英語に触れない日はない。ニューヨークからの連絡は当然、英語だし、英文記事を日本語に翻訳する作業も多い。ただ、「話す」シチュエーションは思いのほか少ない。東京のオフィスにいる外国人は皆、日本語が堪能(日本人スタッフの翻訳をサポートしてくれる)だし、海外の記者との連絡も最近はメールばかり。最後に仕事で英語を話したのはいつだろう──。
 
 そんなときに思い出したのが、企業の英語研修のトレンドを取材したときに知ったTOEIC スピーキング/ライティングテスト(SWテスト)。就職活動や社内の人事評価の定番となっている通常のTOEICとは別のテストで、「話す」と「書く」という発信型な英語力を測定できる。

 リーディングとリスニングの力を測る従来のTOEICで高得点でも、外国人の前ではしどろもどろというケースが少なくないだけに、最近は採用や海外赴任者の選考の際にSWテストのスコアの提示を求める企業が徐々に増えているという。トータルのスコアだけでなく、発音やイントネーションの評価も表示されるというから、自分の今の実力を知り、対策を講じる足掛かりにもなりそうだ。

 11月のある日、SWテストを受けてみた。パソコンが置かれたブースに座り、試験官の説明を聞き終えると、ヘッドセットをつけて、まずは約20分間のスピーキングテストがスタート。初めの2問は広告などの英文を音読する問題。よかった、ざっと見たところ、知らない単語はなさそうだ。テレビCMのナレーターになったつもりで、大げさに抑揚をつけて読んでみる(試験終了後に自分の回答を聞き直したら、かなり強調したつもりの部分でも単調に聞こえたが)。

 続く第3問は、写真を見て内容を45秒で描写するという問題だ。サンプル問題にあるように、スーパーで買い物客が品物を物色している、という類の日常の一コマなのだが、聞き手が光景をイメージできるように説明するのは意外と難しい。しかも、45秒は結構長い。棚に並ぶ商品や店員の様子についても話す時間は十分あるのに、思い出せない単語があって口ごもっているうちに時間切れ。後半は、ほとんど意味不明に「well...,The man is...,ah...」とつぶやくだけだった。

 その後も、モニターに映し出された文書を見ながら、問い合わせの電話に即興で答える、与えられたテーマについて自分の意見を60秒で述べる、など難易度の高い問題が続く。なかでも冷や汗をかいたのは、顧客からの苦情電話に応える形で、電話で解決案を提示するという問題だ。まず「Thank you very much for calling, Mr.○○.」といった決まり文句で挨拶し、次に解決策らしきものを話してみる。それでも、残り時間はまだ20秒以上ある。何か言わなくては、と焦るほど、何も頭に浮かばない。
 
 後で思い返せば、「他に質問はありませんか」と相手に尋ねてみるとか、「この方法でうまくいかなかったら、遠慮なくまたご連絡ください」と付け加えるなど言えることはいくらでもあったし、実際の顧客対応ではそうした気遣いの言葉が不可欠なのだが、その場では頭が真っ白になり、最低限の用件を伝えただけ。日本人は質問に答えることはできても、そこから話を膨らませたり、会話をつなげるのが苦手だとよく言われるが、その典型だのような対応になってしまった。 

 気を取りなおして、次は60分間のライティングテスト。ヘッドセットを外して、キーボードに向かう。こちらも、ビジネスの現場で実際にありそうなシチュエーションばかり。取引き先からの問い合わせメールを読み、可能な対応策についての返信メールを書く、といった具合だ。

 最後の課題は、30分かけて自分の意見を記述するもの。「効果的な回答を作成するには少なくとも300語以上必要でしょう」という注意書きが添えられている。今回の課題は、ある情報を入手する方法を複数挙げて解説するというもの。仕事で英文メールを書くことはよくあるので、結論を最初に書く、根拠を述べるといった鉄則を意識しながら、それなりのスピードで調子よく書き進める。

 2パラグラフほど書いたところで、ワード数をチェック。え? まだ150語? それ以降は時間との戦いで、ときには中学生の英作文のようなシンプルな表現をつなぎながら、何とか300字に到達した。30分で300字以上書くには、ぴったりの表現を探してあれこれ考えたり、構成を吟味する暇はない。英語で書いていることを意識せず、日本語で書くときのように内容に集中して書き続けるくらいの慣れが必要なようだ。
 
 あっという間に試験終了。疲れたが、刺激的な経験だった。特にスピーキングでは、もっとこう言えばよかったという後悔が残るが、コミュニケーションはその場で何を言えるかがすべてなのだから、これが今の力なのだろう。

 印象的だったのは、英語の知識そのものではなく、英語でビジネスコミュニケーションを行う力を測るという明確な姿勢だ。SWテストでは、どんな英語表現を使うべきかという言語的な判断だけでなく、トラブルにどう対処すべきかといった業務上の判断も瞬時にしなければならない。社会人経験のない人には高いハードルに思えるが、企業がそうした力を備えた即戦力の人材を求めるのはもっともな話で、その指標としてSWテストが採用されるのも自然な流れだろう。実際、急速に「英語先進国」になりつつある韓国では、すでに約350社が採用や昇進時にSWテストのスコアを利用しており、受験者数は年間15万人に達するという。

 もっと流暢に話したい、もっと正確で論理的な英文を書きたいと思っても、そのために何をしたらいいのかわからないという人は多いだろう。そんな時はSWテストのような試験をペースメーカーとして利用すれば、効率よくビジネスに必要なレベルの発信力を身に付けられそうだ(英語のアウトプット能力を測るテストには、他にもTOEFLやGTEC、VERSANT、TSST、STEP BULATSなどがある)。

 採点結果が届くのは約3週間後。漠然と感じていた自分の弱点を突き付けられそうで怖いけれど、かなり楽しみでもある。久しぶりに英語と本気で向き合ってみようという気持ちが高まってきた。

──編集部・井口景子

■TOEIC SWテストの無料受験モニターを募集中です。詳しくはこちら

このブログの他の記事も読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&Pとナスダック下落、ネットフリッ

ワールド

IMF委、共同声明出せず 中東・ウクライナ巡り見解

ビジネス

NY外為市場=円・スイスフラン上げ幅縮小、イランが

ビジネス

米P&G、通期コア利益見通し上方修正 堅調な需要や
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story