コラム

豪首相交代は政変? 選挙対策?

2010年06月28日(月)10時17分

 オーストラリアの首相交代劇は、国外だけでなく国内のメディア、一般の有権者にとっても結構な驚きだったようだ。いくつかのメディアが「coup(クーデター)」という刺激的な比喩を使っている。

 与党・労働党のラッド前首相は、07年の選挙で保守陣営から政権を奪取し、国民の高い支持率は一時70%を超えていた。それがどうしてここまで追い込まれたのか? オーストラリア在住のジャーナリスト、デボラ・ホジソンは「個人的な資質」が大きな要因だったと指摘している。

 彼女によると「まるでロボットのようで人間的な魅力に欠けるラッドに、オーストラリアの有権者は辟易していた」。労働党はおそらく非公式の世論調査を実施し、ラッドが党首では今年の総選挙に勝てないと判断して、党内の有力者が中心となってラッド降ろしに動いたという。

 日本の有権者には容易に想像できる話だ。ラッドはとても「根回し」が苦手な政治家だった。執務室にこもって周囲を自分の取り巻きで固め、そこからすべての指示を出す。結果としてラッドには党内に友人がほとんどおらず、どこの派閥に加わることもなかった。有権者にとって悪いことではないが、党内の他の政治家や閣僚メンバーは苛立をつのらせていた。

 新首相のギラードは、労働党内でも左派で労組色が強く、以前だったら首相候補者には成りえなかった。しかし調整役としての能力、アドバイスを受け入れる柔軟さが買われて今回の登板となった。当然、初の女性首相という清新なイメージで総選挙を乗り切ろうという党幹部の目論みがあったことは疑いない。

 選挙を前にして党首という「看板」を付け替えるのは、どうやら日本に限らず、支持率が落ちた政党の常套手段らしい。こうして選挙のたびに世論におもねっているうちに「政治=世論対策」になってしまわないか。そんな不安は感じさせる。

ー―編集部・知久敏之

このブログの他の記事も読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国で「南京大虐殺」の追悼式典、習主席は出席せず

ワールド

トランプ氏、次期FRB議長にウォーシュ氏かハセット

ビジネス

アングル:トランプ関税が生んだ新潮流、中国企業がベ

ワールド

アングル:米国などからトップ研究者誘致へ、カナダが
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナの選択肢は「一つ」
  • 4
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 5
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 6
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 9
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 7
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story