コラム

写真家パオロ・ペレグリンの蔵書

2010年03月10日(水)19時00分

 今月初めにかけて、本誌契約フォトグラファーのパオロ・ペレグリン(マグナム所属)の来日中に何度か一緒に食事をして、彼が手がけているプロジェクトや、ハイチから土産話、業界の四方山話などをしつつ楽しく過ごした。

 写真集の情報交換をした時、彼が一番に推薦していた作品はガイ・ティリムの『Avenue Patrice Lumumba』だ。「コンゴの写真は非常にたくさん見たが、ガイのアプローチの独自性や写真の素晴らしさに引きこまれる」とのこと(昨年6月に本誌Picture Powerで紹介した「独立後のアフリカに残るキズ」に一部掲載)。彼ほどの素晴らしい写真家がどんな作品を見て何を思うのかはとても興味深い。

 彼が最近買った写真集は偶然私と同じで「New Topographics」、1970年代後半から活躍したロバート・アダムスやヘンリー・ウェッセルなどの作品集で、人間が造りだす人工物によって変貌していく風景を地勢学の測量のように感情を排して撮影するスタイルの風景写真である。私がすき焼きに夢中になるあまり、肝心の彼のコメントを忘れてしまい申し訳ないが、冷徹な客観性という意味では上記のガイ・ティリムの作品に通ずる部分がありそうだ。

 最後になったが、彼が置いていってくれた本人の最新写真集は「Fotografie Paolo Pellegrin」。近年の作品を集めたポートフォリオで、本誌で掲載したレバノン、イラク、パレスチナ、アフガニスタン、コソボなどの紛争の写真に加え、ニューヨーク・タイムス・マガジンのために撮られたブラッド・ピット、ケイト・ウィンスレット、ショーン・ペン、ロバート・ダウニー・jrなどのハリウッドスターたちをフォトジャーナリスティックに撮影した写真は必見だ。普段はゴージャスなセットに囲まれてカメラに向かってポーズする彼らが決してみせなかった楽屋裏や移動中の素顔を見事に切り取っている。作品を見た他の著名な俳優から「あんな風に撮ってくれ」と言われたそうで、彼の「セレブ・ドキュメンタリー」は写真の新しい潮流になるのかも知れない。

 パオロのローマの自宅にある床から天井までの作りつけの書棚はすでに一杯になりつつあるらしいが、お気に入りの蔵書が加わったらまた是非教えてもらいたい。

──編集部・片岡英子

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