コラム

ウッズ顔負け!? 「政界失楽園」米国版

2010年03月01日(月)14時00分

 

裏切りの予感? 不倫が発覚する前、妻エリザベスと見つめ合うエドワーズ(07年4月)
Jim Young-Reuters
 


 ゴルフ界のプリンスから一気に「スキャンダルの帝王」に転落したのはタイガー・ウッズ。では、米政界のプリンスからサイアクの不倫男に転げ落ちたのは?――ジョン・エドワーズ元上院議員(56)だ。

 エドワーズといえば、04年大統領選で民主党の副大統領候補に指名され、08年にも大統領選に出馬した言わずと知れたスター政治家。民主党予備選で敗れたものの、オバマ大統領の副大統領候補リストにまで名を連ねた人物だ。

 このエドワーズが今、ドロドロ不倫で血みどろになっている。

 政治家の不倫スキャンダルなんて日常茶飯事のアメリカでエドワーズ不倫の何が衝撃かって、それはなんと言っても「庶民のヒーロ-」的なイメージで知られていたエドワーズが、「アメリカ政治史上、最も薄汚いセックススキャンダル」を巻き起こしているということだ。

 大統領選でのエドワーズは、腕まくりしたシャツとジーンズ姿で爽やかな笑顔を振りまく、「青春映画スター」さながらのナイスガイ。ブルーカラーの両親に育てられ、家族の中で初めて大学に進学して弁護士になったアメリカンドリームの体現者でもある。大統領選には貧困撲滅と国民皆保険を訴えて出馬し、白人労働者層を中心に支持を集めていた。

 ところがところが。最近、エドワーズの元側近であるアンドルー・ヤングが暴露本『政治家(The Politician)』を書くと、その発売直前にエドワーズが「隠し子」の存在を認めたのだ。

 エドワーズのお相手は、選挙用の映像製作を担当したリエル・ハンター(45)。07年10月に米タブロイド紙ナショナル・インクワイアラーが2人の関係を独占スクープしたときは、エドワーズは「バカバカしい」と一蹴していた。不治の癌と闘病中の妻エリザベスと、結婚30周年記念に2度目の結婚式を演出して涙を誘ってからわずか3カ月後の報道だった。

 その後ハンターの妊娠が報じられると、08年1月に民主党予備選がスタートする直前に、(暴露本を書いた側近)ヤングが「父親は自分だ」と宣言。翌月2月27日に女の子が誕生した。

 だが、民主党予備選から撤退後の08年8月、エドワーズはABCテレビのインタビューで不倫を告白する。この時、エドワーズは反省しまくりなご様子でこう語っていた。

「大統領選に出馬表明する前に関係は終わっていた。06年の短期間だった」
「大きな間違いを犯した」
「(女児の)父親ではない。交際期間から考えて、それはあり得ない。実父確定検査を受けたい」
「(ハンターを)愛していない。愛しているのは妻ただ1人」

 不倫劇もここで終われば、「王子もただの人間だった」で済んだものを・・・・・・。さすがは「政界失楽園」のアメリカ版。そんな中途半端な最終回はあり得ない。

 選挙期間中は、側近中の側近としてエドワーズに尽くし、不倫の隠蔽に奔走してきたヤング。その彼がここにきて、「もう我慢ならん」とすべてを暴露し始めたのだ。ヤングが語る、エドワーズの衝撃の行動とは――。

1)エドワーズが愛人ハンターにささやいた約束――妻が癌で死んだらニューヨークのマンハッタンで屋上ウェディングを挙げよう!

2)ハンターの妊娠を知ったエドワーズは、ヤングに中絶の説得を手伝うよう頼んだ。いわく、「ハンターは狂った尻軽女だから、父親が自分である確率は3つに1つだ」

3)自分が女児の父親かどうかをDNA検査で確認しようと、エドワーズがヤングに頼んだこと――赤ん坊のオムツを盗んでこい! 必要とあらば、医者に検査結果を偽造させろ!

 その他、ヤングに父親宣言をさせたエドワーズはヤング夫妻とハンターをプライベートジェットで雲隠れさせ、1週間1万ドルのホテルなどを転々とさせたという。これらの資金をパトロンたちからの寄付金で賄っていたというから、「庶民の味方」が聞いてあきれる。

 一方でエドワーズにしてみれば、ヤングの背信ぶりもものすごい。「(妻)エリザベスの死に際を楽にするため、すべて隠したい」というエドワーズの自己中な思いやりをよそに、その闘病中のエリザベスを前に、容赦なく暴露しまくったのだから。

 しかもこのヤング、エドワーズと当時妊婦だったハンターの「セックステープ」を入手し(ゴミ箱から回収したらしい)、自分の妻と一緒にご鑑賞。夫妻で『オプラ・ウィンフリー・ショー』などのテレビ番組に出演し、テープの内容まで告白した。もちろん、ハンターはこのテープの返還を求めて訴訟を起こしている。

  さて、この不倫劇で一番かわいそうなのは不治の病のエリザベス、と思いきや、彼女は泣き寝入りするようなタマではない。ヤングがFOXニュースに語ったところによると、エリザベスはヤングへの留守電で「あの赤ん坊の費用はアンタが払うのよ!」と怒鳴りちらし、現在は「自分とエドワーズの結婚が破綻したのはヤングのせい」としてヤングを訴えようとしている。

 一方のエドワーズはというと、1月21日に自分が隠し子の父親だと認めた同日にハイチ入りし、こう発言。「言うべきことは言った。人々を助けるためにここに来た」。 ・・・・・・・今、エドワーズほどハイチが不似合いな男はいないだろう。

 そしてエドワーズはこの「父親宣言」の直後、32年間連れ添い、4人の子供(そのうち長男は事故死)をもうけた妻エリザベスと離婚手続きに入った。

 ここまで泥沼化した不倫劇。最初からスクープし続けてきたナショナル・インクワイアラー紙は、同紙の報道を今年のピュリツァー賞にエントリーした。確かに、大統領になろうという男がその選挙活動中に羽目を外しまくっていた事実をスッパ抜き、主要メディアが軽視するなか伝え続けた功績は大きいだろう。エドワーズは大統領の座にはほど遠かったかもしれないが、オバマとタッグを組んで副大統領になっていた可能性は十分にあったのだから。

 そのインクワイアラー紙は、もちろん衝撃のクライマックスを用意してくれた。

 エドワーズが、愛人ハンターと婚約!

 この報道はすぐにエドワーズの代理人に否定されたが、ここまで嘘で固めてきたエドワーズだけに、インクワイアラー紙のガセネタだと決め付けるのは早いかもしれない。エドワーズは大ドンデン返しを期待したいところだろうが、彼の政治生命はおそらくすでにジ・エンドだ。


──編集部・小暮聡子

このブログの他の記事も読む

 

 



 

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

午後3時のドルは155円後半で小幅高、円売りじわり

ビジネス

英、ESG格付け規則を28年施行へ 利益相反懸念に

ビジネス

ユニクロ、11月国内既存店売上高は前年比7.6%増

ビジネス

インド株Nifty50、26年末までに12%の上昇
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯終了、戦争で観光業打撃、福祉費用が削減へ
  • 2
    【クイズ】1位は北海道で圧倒的...日本で2番目に「カニの漁獲量」が多い県は?
  • 3
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 4
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 9
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 10
    600人超死亡、400万人超が被災...東南アジアの豪雨の…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story