コラム

欧米メディアは「お辞儀」にうるさい?

2010年02月15日(月)17時00分

 少し前のことになりますが、2月5日に行われたトヨタの豊田社長の謝罪会見でちょっと気になったことについて。

 欧米メディアの報道に豊田社長の「お辞儀」に注目したり、強調する記事が目立っていたことです。米LAタイムズは記事の冒頭で「期待されていた長くて深いお辞儀ではなく」「たった1秒」と断じ、日本の謝罪会見で見られるお辞儀という文化について詳しく報じていました。

 英タイムズ、オンラインマガジンのスレートは、日本のお辞儀の種類やそれぞれの意味について詳しく紹介。他メディアの記事でも、「謝る:apology」に加え「頭を下げる:bow」という表現がやたらと多用され、「ちょっとしか頭を下げなかった」という論調が目立ちました。

 思えば、昨年オバマ米大統領が来日して天皇陛下にお辞儀をした際にも、アメリカではこれに反発する「お辞儀騒動」が起きました。反発の理由として、冷泉彰彦氏は「自分の国を代表する大統領が、他国の元首に対して90度頭を下げるというのは、自分を含めたアメリカ人が卑屈になったよう」という見方や、「アメリカの黒人家庭では、子供に『人様に頭を下げてはいけないよ』という教育をする時代があった」という、日米の文化の違いを紹介していました。
 
 なるほど、日本では日常茶飯事であるお辞儀に、アメリカ人が神経質になるのもうなずけます。

 これに対して、たしかに日本人はしょっちゅう「会釈」をするし、新入社員にお辞儀の仕方を教えるなどお辞儀はビジネスの基本とされています。

 このように「お辞儀に慣れている(することにも、見ることにも)」日本では、謝罪会見で「どのくらいの角度で、何秒間」頭を下げたかを注視して、どれだけ心底謝っているのかを推し量るという感覚は、欧米ほどないように思います。(たしかに謝罪会見で「会釈」していたら「アレ?」と思うかもしれませんが)

 逆に、日本で「この人、すごく本気で謝ってる」と特に意識するケースは、「土下座」ではないでしょうか。土下座会見ともなれば、日本でも多少は目立つと思います。その意味では、欧米メディアは今回の謝罪会見を「社長が中途半端に土下座した」というレベルで報じているように感じました。

 そう言えば、昨年、米保険大手AIG幹部への高額ボーナス問題をめぐって米上院議員が「(AIG経営陣は)日本企業を見習ってアメリカ国民に深々と頭を下げて謝れ(take that deep bow and say I'm sorry)」と発言しました。この表現、きっと日本で言う「土下座して謝れ!」ですよね。(ちなみにこの議員、「辞職するか自殺しろ」とも発言して、物議をかもしました) 欧米には、「日本企業の謝罪会見」にステレオタイプ的なイメージがあるのかもしれません。

 いずれにせよ、世界規模の日本企業が謝罪会見を行う際には、欧米メディアが「どのくらいの角度で、何秒頭を下げた」かに注目していることを頭に置いておいたほうが良さそうですね・・・。(この点、LAタイムズは豊田社長は「企業責任を認めたと思われて訴訟で不利になるのを避けるため」計算ずくで深々と頭を下げなかったと分析しています)

――編集部・小暮聡子

他の記事も読む

アレキサンダー・マックイーン急死の波紋

ユーロ危機を予測していたフリードマン

中国政治「序列」の読み方

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾閣僚、「中国は武力行使を準備」 陥落すればアジ

ワールド

米控訴裁、中南米4カ国からの移民の保護取り消しを支

ワールド

アングル:米保守派カーク氏殺害の疑い ユタ州在住の

ワールド

米トランプ政権、子ども死亡25例を「新型コロナワク
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 2
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    「AIで十分」事務職が減少...日本企業に人材採用抑制…
  • 9
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「火山が多い国」はどこ?
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 4
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 5
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story