コラム

中国がウクライナでの停戦を呼びかけ──その真意はどこにあるか

2022年09月29日(木)11時40分
上海協力機構で会話するプーチンと習近平

ウズベクで開催された上海協力機構で会話するプーチンと習近平(9月16日) Sputnik/Sergey Bobylev/Pool via REUTERS

<この呼びかけは「中国がロシアを見捨てた」のでもなければ、ウクライナを支援するものでもない。中国の視線の先にあるのは......>


・ロシアで部分的動員が発令された21日、中国はウクライナでの停戦を呼びかけた。

・これは「中国がロシアを見捨てた」というものではなく、むしろロシアにとってほとんどマイナスにならない。

・それ以上に、このタイミングで停戦を呼びかけることは、中国自身にとってのプラスが大きいといえる。

中国外務省は9月21日、ウクライナでの停戦を呼びかける声明を発表した。これはプーチン大統領が予備役30万人を派兵できる「部分的動員」を発令した直後のことだった。

それによると、「我々は対話と交渉を通じて、全ての当事者の安全保障上の懸念をできるだけ早く解消する道を探るため、各方面に対して停戦を求める」。

中国はこれまでウクライナ侵攻を批判することを控え、ロシアからの天然ガスなどの輸入をむしろ増やしてきた。また、アメリカなど西側以外の国が行なう戦争に関してコメントすることも稀だ。

そのため、この停戦の呼びかけを「中国がとうとうロシアを見捨てるサイン」とみる向きもあるかもしれない。

また、プーチンが部分的動員を発令し、ウクライナでの対立がエスカレートする懸念が高まるタイミングで停戦を呼びかけたことで、「中国は平和愛好的」というメッセージを発信することはできるかもしれない。

しかし、コトはそれほど単純ではない。

中国による停戦の呼びかけはロシアにとって大きな損失にならないだけでない一方、ウクライナを支援するものでもない。むしろ、このタイミングでの停戦呼びかけは、中国自身にとってプラスになるといえる。

即時停戦を求めているのは誰か

大前提として確認すべきことが二つある。

第一に、中国が停戦を呼びかけることは、これが初めてではない。ウクライナ侵攻が始まって約半月後の3月11日、王毅外相が「ロシアとウクライナの停戦交渉を支持する」と表明し、その後も折に触れて停戦を口にしてきた。

第二に、とりわけ4月以降、当事者のうち停戦を求めているのは主にロシア政府であり、ウクライナ政府ではないことだ。

2月末から4月初旬にかけては、ロシアとウクライナが停戦に向けて協議した時期もある。この時期にはウクライナ政府が中国に、ロシアへ働きかけるよう要請することもあった。

しかし、ベラルーシやイスタンブールで開催された協議は大きな進展をみせないまま暗礁に乗り上げた。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米エリオット、住友商事に数百億円規模の出資=BBG

ワールド

米上院議員、イスラエルの国際法順守「疑問」

ワールド

フィリピン、南シナ海巡る合意否定 「中国のプロパガ

ビジネス

中国、日本の輸出規制案は通常貿易に悪影響 「企業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story