コラム

アメリカがイランを攻撃できない理由──「イラク侵攻」以上の危険性とは

2019年05月15日(水)16時25分

その一方で、2018年の貿易赤字は8787億ドルにのぼり、12年ぶりに過去最大を記録した。これを埋めるようにトランプ氏は5月5日、2000億ドル相当の中国製品の関税率を10%から25%に引き上げることを決定したが、この関税引き上げは部分的にはアメリカの輸入業者などの負担増にもつながる。

経済の先行きが不透明ななか、この上さらに輸送コスト増でブレーキをかければ、トランプ氏にとっては来年の再選に黄信号が灯ることになる

常識は通用するか

こうしてみた時、アメリカが実際にイランで軍事行動を起こすハードルは高い。 

ただし、それはあくまで常識的、合理的な判断であって、これまでのトランプ氏の行動パターンからすると、「まさか」という決定もしばしばあった。そのため、戦闘機などでの空爆といった限定的なレベルで実際に攻撃を行い、その成果を大きく宣伝するという可能性も否定できない。

しかし、それはアメリカ以上に反イラン的なイスラエルやサウジアラビアの行動を活発化させるきっかけにもなり得る。その場合、アメリカが事態を制御できるかは疑問で、トランプ氏の意図とは無関係に、これまでに検討したような様々な領域に影響が及ぶ可能性は高い。トランプ氏の危険なツナ渡りは、イラク侵攻以上のリスクを秘めているのである。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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