したがって、吉田茂が国葬の対象となった事例に鑑み、仮に安倍晋三元首相を国葬とするならば、その意義はソ連崩壊後の地政学的な世界環境の中で、西側の自由民主主義国としての日本の新たな道筋をつけた、ということになるだろう。
「自由で開かれたインド太平洋」という日本の新たな生命線を示し、世界中の国々と自由貿易協定を結んだ安倍政権の功績は、まさに戦後日本の歩んできた道の集大成と言えるものだった。吉田茂を除く歴代首相を差し置いて、安倍元首相を国葬の対象とする理由は他にはない。
戦後の日本の国葬は吉田茂・安倍晋三の両名を対象とすることで、日本が明確に西側の自由民主主義国陣営であるという価値観を伝える場となったとみなすべきだ。
ただし、その反面として、安倍元首相は死後も上述の価値観に反対する人々からは批判の対象となり続ける。当然、日本国内には様々なイデオロギーや外国との友好関係を模索する人々がおり、実質的に政治的価値観の称揚を背景とする国葬は物議を醸すことは致し方ない。
今回の国葬は日本の立ち位置を国内外に示す外交的なイベントとなるだろう。私たちもその意味を踏まえて、この国葬に関する理解を深めることが望ましいものと思う。