コラム

出稼ぎ労働者に寄り添う深圳と重慶、冷酷な北京

2023年12月07日(木)14時25分

閉鎖性と強権性を異様に強める北京市政府

深圳市と重慶市はいずれも都市に流入する人口に対して良好な住宅を供給するための努力を始めている。一方、北京市と上海市は都市への人口流入そのものを止めている。下の図4に見るように、北京と上海の人口は2013年以降ほとんど伸びていない。深圳市の人口が2010年から2020年の10年間に726万人増え、広州市も同じ期間に603万人増えたのとは対照的である。

e337bdc4e98a402d85dca81ea212da8d-1024x669.png


私は、北京市が異様に閉鎖性を強めていることを2017年頃から意識するようになった。北京市と隣接する天津市や河北省との間は何本もの道路でつながっているが、2017年夏に天津市に工場見学に行ってバスで北京に帰ってくるとき、バスは突然、高速道路を外れて横の公安検査所へ向かった。

下の写真はそのときに撮ったものであるが、写真の左側にガラガラの道路が見える。これが本来の高速道路であり、かつてはこちらを通って特段の検査もなしに北京市に入ることができた。ところが、2017~19年には天津市や河北省のどの道路から北京市に入るときにも車は「公安検査」という関所を通る必要があり、そこで車の乗員の身分証チェックが行われた。関所のところでは当然渋滞が発生する。検査はテロ防止を目的としたものなのだろうが、これがあるために北京に車で入るのに渋滞も含めて30分は余計に時間がかかり、はたしてその膨大な無駄を必要とするほどの大きなリスクがあるのか、と首をひねってしまう。

2b530e80c7d0de90885e285c5d798063-1024x769.jpg

天津から北京へ入る車は高速道路の途中で公安検査所へ迂回させられる(筆者撮影・2017年8月)

この検査に象徴される北京市政府の閉鎖性と強権性は、出稼ぎ労働者たちが住む村に対しても容赦なく発揮されている。

2017年11月に、北京市郊外の出稼ぎ労働者たちが住む村で簡易宿泊所の火災が起き、19人が亡くなった。火災が発生したアパートは東西80メートル、南北76メートルもある地上2階、地下1階の建物だった。2階には305の居室、1階にはレストラン、商店、銭湯、アパレル工場などが入っていた。その地下にあった冷蔵倉庫で電気のショートが発生したことが火災の原因だが、北京市政府が取った対策は火災を起こしたアパートの責任者を処罰するだけでなく、村の住民を2週間以内にすべて追い出し、村全体を潰すことであった。

北京の火災があぶり出した中国の都市化の矛盾
火災から2週間で抹消された出稼ぎ労働者4万人が住む町

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米有権者、民主主義に危機感 「ゲリマンダリングは有

ビジネス

ユーロ圏景況感3カ月連続改善、8月PMI 製造業も

ビジネス

アングル:スウォッチ炎上、「攻めの企業広告」増える

ビジネス

再送-ユニクロ、C・ブランシェットさんとブランドア
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家のプールを占拠する「巨大な黒いシルエット」にネット戦慄
  • 2
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 3
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自然に近い」と開発企業
  • 4
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 5
    夏の終わりに襲い掛かる「8月病」...心理学のプロが…
  • 6
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医…
  • 7
    広大な駐車場が一面、墓場に...ヨーロッパの山火事、…
  • 8
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    習近平「失脚説」は本当なのか?──「2つのテスト」で…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 4
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 5
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 6
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 7
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 8
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 9
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 10
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story