コラム

不動産バブル崩壊で中国経済は「日本化」するか

2023年10月26日(木)15時17分

ただし、今後も中国の都市化が一直線に伸びていくかというと、そこには懸念すべき要素もある。まず、中国では都市の制度が日本とは異なり、日本のように住民票を移しさえすれば都市の市民としての権利を享受できるわけではない。都市民としての権利をフルに享受するにはその都市の戸籍を得る必要がある。それがないと、子供を就学させることができなかったり、都市の住宅を購入できなかったり、車を買ってもナンバープレートを発行してもらえなかったりという制約を受けることが多い。そして都市の戸籍は、とくに北京市や上海市では取得することがかなり困難だ。都市の政府はこうした戸籍などの制度的障害を利用して人口の流入をある程度はコントロールできる。そのため、日本とは違って、制度的な障壁によって都市化が止まってしまう可能性がある。

 
 
 
 

ただ、中国の中央政府はかなり強い口調で戸籍による差別を撤廃して都市化を推進するよう訴えているし、現に都市人口比率が一貫して上昇していることを考えると、今後も都市化が進展するだろうし、最終的には都市人口比率が日本並みの8割前後にまで到達するであろう。中国の都市化はまだ道半ばであり、その水準は日本の1974年にさえ到達していない。この側面からいえば、中国の不動産業の発展が現時点で終わるはずがないのである。

marukawa20231025143905.png

では中国の住宅高度化はどのような段階にあるのか。この点に関しては、中国には日本の「住宅・土地統計調査」に該当する調査がないため、図3にあたるような図を作ることができない。ただ、仮にそういう調査があったとしても、中国の場合には、日本のように平均値によって現状を判断することは難しいと考える。

なぜなら、中国の都市部は住宅を所有できる階層と所有できない階層へ二極分化しているからだ。いま中国で不動産バブルが崩壊しているのは、住宅を所有できる階層には満足のいく住宅があらかた行きわたったからだと私は推測している。だがその一方で、中国の都市には住宅を買えない膨大な人口がいる。そうした人々は現状では狭くて危険な賃貸住宅に住んでいる。彼らにはもっと条件のよい住宅に移りたいという強烈な願望があるはずだ。その面では、都市住民の多くが一応満足できる住宅に住むようになった1990年代の日本と中国の現状とはまったく異なる。

このように、中国の都市化は日本の1974年の状況に到達していないし、仮に今後地方政府の抵抗によって都市化の進展が止まってしまったとしても、住宅の高度化は日本の1993年の状況に到達していない。そう考えると、中国の不動産業の発展がここで終わっていいはずがないのである。

中国学.comより転載

参考文献

橘川武郎・粕谷誠編『日本不動産業史:産業形成からポストバブル期まで』名古屋大学出版会、2007年

松久勉「農業地域類型別市町村人口の将来推計-旧市町村を中心に-」『農村の再生・活性化に向けた新たな取組の現状と課題-平成24~26年度「農村集落の維持・再生に関する研究」報告書-』農林水産政策研究所、2015年

松久勉「旧市町村データに基づく農村人口の将来推計」『農山村地域の人口動態と農業集落の変容-小地域別データを用いた統計分析から-』農林水産政策研究所、2021年

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任し国連大使に指

ワールド

米との鉱物協定「真に対等」、ウクライナ早期批准=ゼ

ワールド

インド外相「カシミール襲撃犯に裁きを」、米国務長官

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官を国連大使に指名
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story