コラム

日本経済の地盤沈下を象徴する航空業界

2019年03月08日(金)12時40分

アメリカや中国では航空旅客数が急伸しているのに日本は横ばい  Kim Kyung-Hoon-REUTERS

<「賃金偽装疑惑」で騒然とする昨今、ごまかしがきかなそうな景気指標として航空旅客数を見てみたら、主要国のなかで日本だけが長期停滞していた。いったいなぜなのか>

いま日本の国会では厚生労働省による賃金統計の不正問題が論戦になっている。アベノミクスの成果を粉飾するために、賃金が上昇したように見せかける操作したのではないかと疑われているのだ。ただ、賃金が上がったのか下がったのかという一見簡単そうなことでも、統計を作るのは容易でないことは理解しておくべきである。規定通りに大企業を全数調査していれば賃金統計は正確だった、というような単純な話ではない。

政府が発表する統計が信じられなくなったとき、知りたいことがらと相関関係があり、かつなるべく操作の余地がないような統計数字をみる、というのは一つの知恵である。

例えば経済全体が成長しているかどうかを見るには、航空旅客数を見たらいいと、アメリカの某教授が教えてくれた。飛行機に乗るのはビジネス客もいれば観光客もいるので、航空旅客数は国の経済的活力と豊かさを代表している感じがする。しかも、飛行機に乗る乗客の数を航空会社は把握していて、たぶん正直に政府に報告しているから、操作や誤差の入り込む余地があまりない。

ということで、私は中国の経済規模が2030年までにアメリカに追いつく、と予想してきたが、果たして航空旅客数で見たらどうなんだろうと思って図1を作った。案の定、2020年代のどこかで中国の航空旅客数がアメリカを抜きそうな感じだが、思いがけず、日本の航空旅客数だけが長期停滞に陥っていることに気づいた。

marukawachart20307.jpg

日本の航空旅客数は2017年の1年間に1億2390万人。ちょうど日本国民が1年に1回飛行機に乗った勘定だ。2000年には日本の航空旅客数は1億912万人だったので、17年間で14%しか増えていない。

日本だけが停滞していることは図1で中国、ドイツ、アメリカと比べれば一目瞭然であろう。中国はこの17年間に航空旅客数が8.9倍に拡大した。ドイツも2倍になった。アメリカは2000年時点ですでに6億6537万人と、とても多かったが、それでも17年間で28%増えている。図1には示していないが同じ期間に韓国は2.4倍、イギリスは2.2倍に伸びている。

日本の航空旅客数は2000年代はずっと減少傾向が続き、世界経済危機の嵐が襲った2009年には8690万人にまで落ち込んで、翌年1月にJALが倒産した。2010年はかなり回復したものの、2011年は東日本大震災の影響で再び落ち込んだ。安倍政権が成立した2012年から2018年までは28%増えており、航空旅客数で見る限り、アベノミクスは日本経済の回復に効果があったといえる。ただそれは2000年代の失地を回復したというのにとどまる。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

金総書記、プーチン氏に新年メッセージ 朝ロ同盟を称

ワールド

タイとカンボジアが停戦で合意、72時間 紛争再燃に

ワールド

アングル:求人詐欺で戦場へ、ロシアの戦争に駆り出さ

ワールド

ロシアがキーウを大規模攻撃=ウクライナ当局
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 9
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 10
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story