コラム

「顔パス社会」は来るか?

2018年05月18日(金)19時30分

もし高速で正確な顔認証システムが実用化されれば、我々の生活に革命的な変化が起きる可能性がある。カードというものがいっさい必要なくなるのだ。

ここでいうカードとは定期券、運転免許証、銀行のキャッシュカード、クレジットカードなどのように特定の個人の名前が記載されているものを指し、テレホンカードのように持ち主を問わないものは含まない。これらのカードが果たしている役割とはカードの持ち主である人間と、何らかの属性とを結びつけることである。

例えば持ち主が定期券を所有していること、AT限定の普通運転免許を受けていること、東京大学の職員であること、杉並区立図書館に登録していること、生協の組合員であること、といった個人の属性を示すことがカードの役割である。

自分がこの手のカードを何枚持っているのか数えてみたところ、実に48枚もあった。すべてのカードを持ち歩いているわけではないので、強盗の皆さんは私を襲わないでいただきたい。余計なカードをなるべく持たないようにしてきたのに、こんなに多くなってしまった。

ポイントカード不要

何か買い物をしようとすると、「○○カードに入るとポイントがたまってお得ですよ」と店員がしつこく勧誘してくるし、いったんカードを持ってしまうと解約するのは大変だ。au Walletカードなどは、電話で解約を申し出たらオペレーターが「一時休止はできますが、解約はできません」とのたもうた。「解約できないなんてそんなバカな」と思わず声を荒げてしまったところ、オペレーター氏は「上司に確認します」といって5分後ぐらいに「やっぱり解約できます」と言ってくれたので安堵した。

しかし、その後も解約したらこんな不利益がある、あんな不都合がある、このカードを持たないなんてお前は世捨て人かと言わんばかりのセールストークを浴びせてきた。

こうやってカードを持つように薦めてくる人たちは、カードによって財布が膨れ上がる問題をいったいどのように解決しておられるのかぜひ伺いたいところである。

たしかに、日本自動車連盟(JAF)がスマホに映し出せる「デジタル会員証」を発行したり、Suicaとセゾンカードとみずほ銀行のカードが全部1枚に統合されるなど、財布膨張問題に配慮してくれている会社や団体もあるが、カードを持たせようとする会社や団体の勢いに比べ、カード減らしの動きは余りに弱い。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 6

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story