コラム

東京のシェア自転車は役に立ちますか?

2017年11月17日(金)18時00分

この「ドコモ・バイクシェア ポートナビ」でわかるのは自転車置き場の場所だけで、そこに実際に利用可能なシェア自転車があるかどうかは行ってみないとわからないし、自転車を「借りる」というボタンを押すと、別サイトへ飛び、IDとパスワードを入力......という先ほど書いた面倒な手続きをやらなくてはならない。

自転車がある場所を示す地図と借りる作業とが一つのアプリのなかで完結するモバイクとはやはり速さ・便利さにおいて雲泥の差があると言わざるをえない。

第四に、私がドコモ・バイクシェアは「2014年度には2500台を配置し、55万件の利用があった」と書いた点について、2016年度には利用件数が180万件に伸びたのに2014年度のデータを示しているのは、意図的に利用件数が小さく見せようとしている、という批判があった。

実のところ、年間利用件数が55万件だろうが180万件だろうが、1日の利用件数が2000万件(1年に換算すると73億件)という中国のモバイクに比べれば大した違いはない。私が問題にしたかったのは、シェア自転車の利用頻度、つまり自転車1台あたりどれだけ利用されているかだ。この計算をするには2014年度のデータしか使えなかったのだが、それによれば、ドコモ・バイクシェアの利用頻度は中国のモバイクの9分の1にしかすぎない。

運営資金は自治体の税金

こんなに利用頻度が低い状況が今も続いているのだとすれば大問題である。なにしろ日本のシェア自転車は地方自治体の税金によって運営されているからだ。例えば、文京区は平成29年度予算で、自転車シェアリングに7824万円を充てている。区によれば8月末時点で32か所の置き場に200台のシェア自転車が配置されているという。

費用には専用ラックや、自転車のメンテナンスをするための人件費なども含まれているとはいえ、驚くなかれ1台あたり39万円もかかっているのである。都会なので、おおむね1回あたりの利用時間が30分以内だとすれば、39万円を利用料金で回収するには2600回の利用がないといけない。ところが先ほどみた2014年度の利用頻度は1年あたり220回なので、回収が終わるのに12年を要するということになる。

次年度以降もメンテナンス費用が毎年かかるし、自転車の耐久年数が12年もあるとは思えないので、結局利用料金によって初期投資が回収できる見込みはまずない。

東京でドコモ・バイクシェアを運営主体とした自転車シェアリングを最初に始めた千代田区では平成26年度に2億円、27年度に6400万円も費やしている(千葉利宏「千代田区に見るシェアサイクルの現在」)。千代田区に何台配置されているのはわからないが、仮に文京区と同じく200台だとすると、1台あたり130万円と、車が買えるぐらいの費用がかかっている。

marukawa171117.jpg
東京・千代田区コミュニティサイクル「ちよくる」のレンタル自転車 Tomoo Marukawa

自転車シェアリングは区民の交通の利便性を向上させ、渋滞を緩和し、環境をよくする福利事業なのだとすれば、投資が回収できなくても社会的意義があると言えるのかもしれない。ところが、置き場の配置はよくないし、解錠に時間がかかるし、ナビも大して役に立たず、とりわけ文京区の人口の半分を占める中高年には使いにくいとなると、区民の税金の使い道として果たして適切なのかという疑問が生じる。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

シェル、第1四半期は28%減益 予想は上回る

ワールド

「ロールタイド」、トランプ氏がアラバマ大卒業生にエ

ワールド

英地方選、右派「リフォームUK」が躍進 補選も制す

ビジネス

日経平均は7日続伸、一時500円超高 米株高や円安
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story