コラム

中国・国家統計局長の解任と統計の改革

2016年02月08日(月)17時00分

失業しても失業統計にカウントされない農民工は1億7000万人近い Kim Kyung-Hoon- REUTERS

 1月19日に中国の国家統計局が2015年のGDP成長率は6.9%だったと発表し、私を含めて世界の少なからぬ中国ウォッチャーが「予想通り『盛った』数字を出してきたな」と思ったのもつかの間、その数字を発表した国家統計局長の王保安氏が「重大な規律違反」によって解任されました。重大な規律違反とは要するに汚職のことですが、王保安氏の前職である財政部時代のことに関して嫌疑がかけられているようです。

 王保安氏の解任を聞いて、私は「さもありなん」との思いを禁じ得ませんでした。というのも彼が局長になってから国家統計局が発表するGDP統計の質がにわかに低下し、統計局が進めようとしていたはずの改革も停滞してしまったからです。

 GDP統計の質の低下というのは、以前このコラムで指摘した工業の成長率の過大評価の疑いです。王保安氏が統計局長に就任した2015年4月に発表された2015年第1四半期のGDP統計以来、工業の成長率と、工業を構成する主要な品目(鉄鋼、電力、自動車、石炭、非鉄金属、半導体など)の生産量の成長率との間に矛盾がみられるようになりました。この矛盾は王氏の局長としての最後の仕事になった2015年通年のGDP統計にもあります。各品目の成長率からみて、工業の成長率は公式発表の6.1%よりずっと低く、0%前後だったと私はみています。もっともこの問題については以前このコラムで詳しく論じましたので、今回は統計の改革について書きます。

中国の所得格差を明らかに

 王氏の前任の国家統計局長は馬建堂氏でした。馬氏はもともと国務院発展研究センターに所属する経済学者だったこともあり、国家統計局長だった間、統計によって中国の真の姿を明らかにすることに情熱を燃やしていました。特に彼の任期(2008~2015年)の最後の数年間にいろいろな改革を進めました。

【参考記事】中国経済「信頼の危機」が投資家の不安をあおる

 まず、2013年1月には、中国の家計所得の不平等度をあらわすジニ係数が2003年まで遡及して一気に公表されました。それまでも世界銀行などによるジニ係数の計測は行われておりましたが、初めて中国の権威ある統計機関によってジニ係数が発表され、中国がアジアの中で所得分配がもっとも不平等であることや、2008年まで所得格差が拡大したのち縮小に転じたことなどが明らかになったのです。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story