コラム

アマゾンvs.アリババ、戦略比較で分かるアリババの凄さ

2017年11月22日(水)11時15分

物流はアマゾンが最も強みにしているところだ。自社で独自に物流ネットワークや倉庫も構築し、出展者の商品の保管から発送までを担うFBA(フルフィルメント by Amazon)として事業展開を行なっている。しかしアリババもまた、これまでに5兆円をかけて24時間配達可能なスマート物流ネットワークを急速に拡大してきた。5年以内には「中国の国内はどこでも24時間以内、世界どこでも72時間以内に配達できる」物流ネットワークを実現すると、会長であるジャック・マーは豪語している。

金流(金融)では、アリババがアマゾンを完全に凌駕している。アマゾンも決済サービスであるアマゾン・ペイや小規模事業者向けに運転資金を融資する「Amazonレンディング」を行なっているとはいえ、アリババのほうは最早「フィンテックの王者」。ECサイト事業や物流事業との三位一体で金融事業を伸ばしてきており、スマホ決済サービス「アリペイ」は世界最大級の決済サービスに育っている。

そのほかの金融サービスを見ても銀行を超えるものであり、すべての金融商品を含めた実質的な資金量もメガバンク並みだ。2017年9月15日のウォール・ストリート・ジャーナルの記事によれば、アリババグループのマネー・マーケット・ファンド(MMF)である余額宝(投資商品)の預かり資産が、わずか4年で世界最大に膨れ上がり、2110億ドル(約23兆3000億円)にまで増加した(2位のJPモルガン・アセット・マネジメントが運用するMMFの2倍以上)。これも、アリペイのスマホアプリによって利用者が簡単に資金をMMFに移動できるというフィンテックによるものなのだ。

アマゾンは政府に敵対的、アリババは米中両政府と良好関係

クラウドコンピューティング・サービスではどうだろうか。現時点ではアマゾンのAWS(アマゾンウェブサービス)が圧倒的な世界ナンバーワン。とはいえ、アリババもAWSを目標に「アリババクラウド」を展開しており、中国市場ではシェアナンバーワンだ。日本ではソフトバンクと合弁で「SBクラウド」を設立、日本国内での提供も始まっている。

続けて、「ビッグデータ×AI」について。アマゾンは顧客の購買履歴データ、音声データ、画像データなどのビッグデータをAIで活用している。それはアリババも同様だが、加えてアリペイを含めたスマホアプリを通じた位置情報データの取得も進んでいるため、ビッグデータの量や質ではアマゾンを超えていると推測される。

経営者同士を比較すると、ジェフ・ベゾスはビジョナリー・リーダーシップの経営者であり、天才と評価される一方で「火星人」と言われるほど人間的には「変わり者」だとされている。

一方、ジャック・マーは中国人にとっての「神様」。その経歴も対照的で、ベゾスは幼少から学業優秀で有名大学出身の「優等生」だが、ジャック・マーは高校受験に2度失敗、大学受験に3度失敗したという「劣等生」だった。中国人の間では、ジャック・マーが「劣等生」出身だったことも人気の要因になっている。

プロフィール

田中道昭

立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学ビジネススクールMBA。専門はストラテジー&マーケティング、企業財務、リーダーシップ論、組織論等の経営学領域全般。企業・社会・政治等の戦略分析を行う戦略分析コンサルタントでもある。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役(海外の資源エネルギー・ファイナンス等担当)、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)等を歴任。『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』『アマゾンが描く2022年の世界』『2022年の次世代自動車産業』『ミッションの経営学』など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

小泉防衛相、中国軍のレーダー照射を説明 豪国防相「

ワールド

米安保戦略、ロシアを「直接的な脅威」とせず クレム

ワールド

中国海軍、日本の主張は「事実と矛盾」 レーダー照射

ワールド

豪国防相と東シナ海や南シナ海について深刻な懸念共有
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 6
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 7
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 8
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 9
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story