コラム

「自動運転があらゆる移動課題を解決する」という期待への違和感

2021年04月14日(水)19時40分

道路インフラに手を入れようとすると途方もない費用がかかるため、車両をできるだけ高度化して自動運転レベル4や5を推進していこうというのが日本の方向性だ。しかし、車両の技術や価格を考えると、信号のインフラ協調のみならず、地域全体の車速を下げたり、利用する地域を選定するなど、道路環境もそれなりに整える必要があると感じている。

必要なのは「計画」

確かに自動運転サービスが実現すれば、多くの移動課題を解決してくれる万能薬となるだろう。

しかし公共交通やモビリティサービスを取材してきた視点から見ると、社会的に最も期待されている高齢者の足の確保や寝ていても移動できる自動運転がサービスとして提供されるためには、あらゆる先端企業や交通事業者、大学、行政の協働と地域住民の理解が不可欠だと分析している。

自動運転車が走る時代について日本で議論する際、自動運転がドアツードアで提供されて移動問題が解決されるという空気が支配的だ。徒歩、自転車、パーソナルモビリティ、公共交通、そして自動車の役割を改めて確認することがおろそかにされていると感じる。

数年内に万能薬として実用化させるためには、都市計画、交通計画、持続可能な都市経営の議論を今以上に活発にしていく必要がある。

また新型コロナウイルスの流行により自宅で仕事する人が増え、GIGAスクールなど教育現場でのデジタル活用が進んだ。通勤などに代表される義務的な移動は減っていくだろう。

人が集まり形成される都市の役割とはこれからどうあるべきか、農山村など密度の低い地域経営はどう維持していくのか、そして人の移動そのものをどう捉えていけばいいのか。ドライバーのいない車両を導入する前に、そんな根本的な議論と計画が必要なのではないだろうか。

ニューズウィーク日本版 脳寿命を延ばす20の習慣
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年10月28日号(10月21日発売)は「脳寿命を延ばす20の習慣」特集。高齢者医療専門家・和田秀樹医師が説く、脳の健康を保ち認知症を予防する日々の行動と心がけ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

「私のこともよく認識」と高市首相、トランプ大統領と

ワールド

米中閣僚級協議、初日終了 米財務省報道官「非常に建

ワールド

対カナダ関税10%引き上げ、トランプ氏 「虚偽」広

ビジネス

アングル:自動車業界がレアアース確保に躍起、中国の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 3
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任務戦闘艦を進水 
  • 4
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 5
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 6
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 7
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 8
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 9
    為替は先が読みにくい?「ドル以外」に目を向けると…
  • 10
    アメリカの現状に「重なりすぎて怖い」...映画『ワン…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 9
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 10
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story