コラム

不法移民・難民の「強制送還」が欧州各国で拡大...受け入れめぐり、タリバン政権と取引する動きも

2025年09月19日(金)16時51分

反移民・難民を掲げる極右勢力が欧州で台頭する中、女性教育の禁止や人権侵害で孤立してきたタリバンが欧州の移民・難民問題という泣き所を利用して国際社会に復帰するための外交的なテコとして利用しようとする動きが目立つ。

ドイツ、スイス、オーストリアはすでにタリバン暫定政権との協力を始めている。英紙フィナンシャル・タイムズ(9月18日付)によると、ドイツ政府は7月、有罪判決を受け、難民申請を拒否されたアフガン人男性81人を送還した。

「重大な罪を犯した者に滞在の権利はない」

タリバンの要員2人を受け入れ、身元確認などの領事業務を行わせた。メルツ独政権は、正式な外交承認ではなく「領事業務のための技術的、運用上の措置」と説明した。アレクサンダー・ドブリント独内相は「重大な罪を犯した者に滞在の権利はない」との強硬姿勢を示す。

スイスは3月、難民申請を却下されたアフガン人単身男性について特定の状況下で送還を認める方針を示した。8月にジュネーブ空港の出入国制限区域でタリバン代表4人を受け入れ、アフガン人11人の身元確認を行わせた。スイス開発協力庁はカブールの人道オフィスを再開した。

オーストリアも今年に入って外国人難民庁の職員をカブールに派遣、タリバンと送還手続きについて協議した。9月にはタリバン代表団がウィーン入りし、拘置施設で対象者20人超の本人確認を行った。「承認ではなく技術的協力」とされるが、実務的には準国家間交渉と言える。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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