コラム

英高裁が「難民ホテル」の使用差し止め認める...宿泊施設の不足で3万人以上の難民申請者に影響

2025年08月22日(金)17時46分

高裁判決が英国政府の難民政策、難民ホテルの運営に影響を与えるのは必至。今も200カ所を超える難民ホテルに約3万2000人が滞在しており、難民ホテルを抱える他の地方議会も法的措置の検討を始めた。保守系、強硬右派の野党は同様の訴えを起こすよう呼びかけている。

最大野党・保守党のケミ・ベーデノック党首は高裁判決を「地域社会を守る勝利」と称賛し、難民申請者をホテルに収容するスターマー政権(労働党)の政策に対して差し止め請求訴訟を起こすよう促す書簡を保守党が率いる地方議会に送付した。

「『クズ野郎』と呼ばれソーダ缶を投げつけられる」

労働党寄りの英紙ガーディアン(8月20日付)によると、イベット・クーパー内相は次期総選挙までに難民ホテルを閉鎖するという今の計画を維持する方針だ。労働党は「難民制度を壊した張本人による偽善」と保守党を逆に批判している。

難民ホテルの数は前保守党政権時に約400カ所に達したが、現在は半減しており、滞在者数もピーク時より2万人減少したと指摘している。他の地方議会が同じように差し止め訴訟で勝訴すれば、スターマー政権は早急に代替の宿泊施設を確保する必要に迫られる。

労働党が率いる地方議会も難民ホテル閉鎖の法的措置を検討している。

立ち退きさせられるソマリア出身の難民申請者はガーディアン紙に「抗議活動の間、部屋に閉じ込められていた。外に出ると『クズ野郎』と呼ばれ、ソーダ缶を投げつけられた。英国でこんな目にあうとは思わなかった。もっと親切だと思っていたのに」と嘆いている。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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