コラム

物価高の今こそ注目すべき「食材」...鹿肉が「生活費」「生態系」2つの危機を克服する

2023年04月07日(金)18時19分

「フードバンクへの鹿肉の持ち込みはいいアイデア」

「生活困窮者に無償で食料を提供しているフードバンクへの鹿肉の持ち込みは本当にいいアイデアだと思います。なぜならコストは最小限に抑えられ、多くの人を養うことができるからです。私たちはもっと鹿肉を活用することを考えるべきで、怖がる必要はありません。本当に鹿肉は美味しいんですよ」とオリバーさんは強調した。

英国の慈善団体「カントリー・フード・トラスト」など3団体は今年中に100万食の野生鹿肉をフードバンクの訪問者に提供する。この試みが成功すれば、計画は学校、病院、軍隊、刑務所などにも拡大される。生活費の危機と鹿の過剰繁殖という2つの問題を一挙に解決する一石二鳥を狙う。フードバンクの利用者はパンデミック前に比べ50%以上も増えている。

環境保護団体によると、野放図な野生鹿の増加は生息地にダメージを与え、樹木や作物、草花を食べ尽くしてしまう。地球温暖化に与える影響も大きい。生息数のさらなる増加を食い止めるには少なくとも75万頭を年内に殺処分にする必要がある。しかし鹿肉の消費市場がそれほど大きくないため、毎年35万頭を殺処分するのがやっとの状況だ。

鹿肉は高級料理という先入観が強く、食べる人が限られ、結局はドッグフードにされる運命にある。一方、英国のフードバンク数はマクドナルドの店舗数をはるかに上回る。生活費の危機でフードバンクの需要が急増する一方で、寄付は激減し、大量に寄付される白い炭水化物よりタンパク質を多く含む鹿肉が危機脱出の切り札になるかもしれない。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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