コラム

英国に辿り着いた難民が、移送されることになった「世界で最も安全な国」とは?

2022年04月16日(土)10時09分
ボリス・ジョンソン首相

英ジョンソン首相 Matt Dunham/Pool via REUTERS

<自身のスキャンダルで窮地に立つ英ジョンソン首相だが、不法移民問題の解決策として国外への移送を発表。人権団体などから批判の声が上がる>

[ロンドン発]コロナ規制を破り首相官邸で自分の誕生パーティーを開いていたとして罰金を科せられたボリス・ジョンソン英首相は14日、今年1月以降、イギリスへの密航者をアフリカ中部ルワンダへ移送すると発表した。ジョンソン氏は「ルワンダは世界で最も安全な国の一つ」と主張するが、難民支援団体から「人権上、大問題」と批判が噴出している。

ジョンソン氏は「2015年以降、イギリスは難民18万5千人以上を受け入れてきた。この中には香港国家安全維持法の強行に脅かされた海外在住英国民旅券保持者とその家族10万人、シリア難民2万人、英軍などに協力したアフガニスタン難民1万3000人、ウクライナ難民5万人が含まれる」と強調する。

そこに加えてイギリスの欧州連合(EU)離脱でジョンソン氏とエマニュエル・マクロン仏大統領との関係が極度に悪化。仏大統領選を控え、マクロン氏も難民に紛れ込む不法移民に神経を尖らせる。英仏海峡をわたってイギリスを目指す不法移民をフランスの海岸で取り締まれば強硬離脱派ジョンソン氏を助けることになるため、見て見ぬふりを決め込む。

昨年11月には仏カレー沖で難民を乗せた小型ボートが沈没、10代と子供を含む27人が溺死した。うち16人はイラク系クルド人、4人はアフガン人だった。仏当局は密航組織の4人を逮捕した。この事件を受けジョンソン氏は公開書簡で英仏共同パトロール、センサーやレーダー導入による監視強化、英仏間の送還協定策定を求めたが、仏側は猛反発した。

英仏海峡を渡る密航者が激増

英内務省によると、英仏海峡を小型ボートで渡る密航者の数は18年の299人から19年に1843人、20年に8466人。昨年は2万8526人と一気に膨れ上がり、イラン人が最も多く30%、次にイラク人21%、エリトリア人11%、シリア人は9%を占めた。今年はもっとハイペースで増えており、密航者は6万人に達する恐れがあるとも予想される。

220416kmr_rbj02.jpg

英仏海峡を小型ボートで渡る月ごとの密航者数(英内務省資料より)

イギリスは15~20年だけでも国境警備のためフランスに計1億1400万ポンド(約188億円)を支払った。しかし英仏海峡を渡る密航者数はまさにウナギ上りの状態で、ジョンソン氏は「フランスに繰り返し寛大な申し出をしてきた。この問題を解決するような包括的な送還協定をフランスとEUに求めている」と強調するが、成果は期待できそうにない。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国やG7と連携、冷静・毅然に対応=中国輸出規制で

ビジネス

PEのクアンタム、ルクオイル海外資産に入札 シェブ

ビジネス

ユーロ圏消費者物価、12月2%に減速 ECB目標と

ワールド

ウクライナ高官、「国益守られる」と評価 有志国会合
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AI兵士の新しい戦争
特集:AI兵士の新しい戦争
2026年1月13日号(1/ 6発売)

ヒューマノイド・ロボット「ファントムMK1」がアメリカの戦場と戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    日本も他人事じゃない? デジタル先進国デンマークが「手紙配達」をやめた理由
  • 4
    「見ないで!」お風呂に閉じこもる姉妹...警告を無視…
  • 5
    トランプがベネズエラで大幅に書き換えた「モンロー…
  • 6
    「グリーンランドにはロシアと中国の船がうじゃうじ…
  • 7
    「悪夢だ...」バリ島のホテルのトイレで「まさかの事…
  • 8
    若者の17%が就職できない?...中国の最新統計が示し…
  • 9
    衛星画像で見る「消し炭」の軍事施設...ベネズエラで…
  • 10
    マドゥロ拘束作戦で暗躍した偵察機「RQ-170」...米空…
  • 1
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙」は抑止かそれとも無能?
  • 4
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 7
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 8
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 9
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 10
    アメリカ、中国に台湾圧力停止を求める
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story