コラム

欧州の炭素価格が80ユーロを突破、インフレ加速の懸念を抱えながらも動き出した大市場

2021年12月07日(火)17時04分
炭素市場のイメージ

脱石炭・化石燃料の削減で合意したCOP26を受けて、炭素市場は活況を呈している metamorworks-iStock.

[ロンドン発]パリ協定6条(市場メカニズム)の実施指針で合意したCOP26(国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議)を受け、欧州の炭素先物市場が一時、二酸化炭素(CO2)1トン当たり80ユーロ(約1万196円)を突破した。100ユーロ(約1万2744円)説まで飛び出す暴騰ぶりだ。年初には32ユーロ(約4078円)を割っていたが、世界の脱炭素化を主導する欧州連合(EU)でCO2排出コストがハネ上がっている実態を浮き彫りにした。

欧州ではコロナ危機による供給制約や労働力不足、需要回復に加え、ガスパイプライン早期承認を迫るウラジーミル・プーチン露大統領による兵糧攻めで天然ガス価格が高騰している。急場をしのぐため石炭火力発電で代替する動きが出て排出削減量の奪い合いになり、先物価格を一気に押し上げた。価格が長期的に高止まりすればCO2の排出削減をはじめ回収・貯留技術、再生可能エネルギーによる水素製造などクリーンエネルギーへの投資が加速されるメリットがある。

しかし欧州では11月時点でリトアニア9.3%、エストニア8.4%、ラトビア7.4%、ベルギー7.1%を筆頭にドイツ6%、スペイン、オランダ各5.6%の急激なインフレが見込まれる。炭素価格の急騰は製品価格に転嫁されてインフレを一段と悪化させ、最終的に低所得者や貧困層の生活を圧迫する恐れがある。EUの行政執行機関、欧州委員会が投機による炭素価格のさらなる上昇を防ぐため市場介入するのでは、との観測も飛び交うほどだ。

パリ協定の「最後のピース」

COP26では47カ国が主要先進国で2030年代、世界全体で2040年代を目標にCO2排出削減措置が講じられていない石炭火力発電からの移行を実現することに賛同するなど脱石炭・化石燃料の動きが加速した。197カ国・地域が「世界の平均気温上昇を産業革命前に比べ摂氏1.5度に抑えるための努力を追求する」と決意した成果文書が採択され、「2022年末までに30年の削減目標を再検討し、強化することを要請する」と明記された。

パリ協定でずっと積み残しになり「最後のピース」と呼ばれた6条の実施指針でも合意に達した。6条はCO2排出削減量を「クレジット」として取り引きする仕組みを定めており、市場メカニズムには2国間取引(2項)と国連主導型(4項)がある。COP26では4項に関連し削減プロジェクトを実施するホスト国と支援するドナー国との間で二重計上を防ぐ一方で、京都議定書時代の古いクレジットは13年以降に限って認めることで妥協が図られた。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ大統領、ベネズエラとの戦争否定せず NBC

ビジネス

独経済回復、来年は低調なスタートに=連銀

ビジネス

ニデック、永守氏が19日付で代表取締役を辞任 名誉

ビジネス

ドル157円台へ上昇、1カ月ぶり高値 円が広範にじ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 6
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 7
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story