コラム

「香港はディアスポラ。既に10万人が英国にいる」中国から指名手配される活動家サイモン・チェン

2021年07月07日(水)11時10分

無事に英国に逃れられても、それで安心とは限らない。

香港の金融セクターで働く高所得者なら就労ビザを取得して永住権を得るのは容易だろう。しかし特別ビザはスキルのない人にも門戸を開いている。コロナ危機で経済活動が制限され、英国人でも仕事を見つけるのは難しい。

英国でカルチャーショックを受けたり、香港での弾圧で精神的な問題を抱えたりしている人もいる。

台湾統一への誤ったシグナル

「経済が正常化されたら購買力が戻るし、EU離脱で英政府はアジアとのつながりを強めたい。香港市民は広東語が使えるし、アジアでのビジネスや慣習にも精通しているのが強みになる。難民の移行期は誰でも困難を伴う。難民は通常、英国に来れば安心だが、香港市民の場合、国安法が国境を越えて追い掛けてくる。それが不安の源になっている」

香港当局の背後で糸を引く中国についてはどう見ているか。

「弾圧を強めているのは権力の防衛本能だ。いったん権力を手にすればますます強大な権力が欲しくなる。国安法は表現の自由を犯罪にした。彼らは権力を抑制できなくなっており、邪悪なスパイラルが始まった」

チェンはロンドンで3度、尾行されたことがあるが、パンデミックで尾行は収まった。中国は英国との関係改善を期待しているのかもしれないと言う。

「ドミニク・ラーブ英外相は中国に対して厳しい姿勢を貫くが、短期的にボリス・ジョンソン英首相が対中姿勢を軟化する可能性はある。地球温暖化や通商では妥協し、対話に舵を切るかもしれない」

しかし、長期的には中国はさらに攻撃的になるというのがチェンの見立てだ。

「西側が南シナ海や東シナ海を『次の香港』と受け止めなかったら、中国は民主主義諸国には自由を守る強固な意思がないと見なすだろう。台湾も統一できるという誤ったシグナルを送ることになる。日本は地理的に中国と近く、中国を激怒させるリスクを恐れている」

ディアスポラからの警告だ。

(※本誌7月13日号「暗黒の香港」特集では、「警察都市」化する香港の今をリポート。執筆:阿古智子〔東京大学大学院教授〕ほか)

ニューズウィーク日本版 2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年10月7日号(9月30日発売)は「2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡」特集。投手復帰のシーズンも地区Vでプレーオフへ。アメリカが見た二刀流の復活劇

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

自民新総裁に高市氏:識者はこうみる

ワールド

自民党総裁に高市氏、初の女性 「自民党の新しい時代

ワールド

女性初の新総裁として、党再生と政策遂行に手腕発揮を

ワールド

高市自民新総裁、党立て直しへ「ワークライフバランス
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 3
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、Appleはなぜ「未来の素材」の使用をやめたのか?
  • 4
    MITの地球化学者の研究により「地球初の動物」が判明…
  • 5
    謎のドローン編隊がドイツの重要施設を偵察か──NATO…
  • 6
    「吐き気がする...」ニコラス・ケイジ主演、キリスト…
  • 7
    「テレビには映らない」大谷翔平――番記者だけが知る…
  • 8
    墓場に現れる「青い火の玉」正体が遂に判明...「鬼火…
  • 9
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「航空機・…
  • 10
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 4
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 5
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び…
  • 6
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 7
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 9
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 10
    MITの地球化学者の研究により「地球初の動物」が判明…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story