コラム

世界はなぜ「離脱の時代」を迎えたか──英国のEU離脱、揺れるルノー・日産連合、トランプの離脱ドクトリン

2018年11月26日(月)13時30分

EUを離脱するメイ英首相(筆者撮影)

[ブリュッセル、パリ発]英国の欧州連合(EU)離脱協定書と新たな関係についての政治宣言が11月25日の日曜日、ブリュッセルで開かれたEU臨時首脳会議で正式に合意された。45年に及んだ「結婚生活」の破局にEU首脳の多くは「悲しい日」「悲劇だ」と表情を曇らせた。

しかし、ジャン=クロード・ユンケル欧州委員長は言葉とは裏腹に両手を広げて歓喜の表情を浮かべた。連邦主義者のユンケル氏は「最善で唯一可能な合意」と欧州の結束を乱し続けてきた英国を突き放した。

MAS_6731 (720x541).jpg

両手を広げて歓喜の表情を浮かべるユンケル欧州委員長(筆者撮影)

当のテリーザ・メイ英首相は最大の難関である英下院採決を前に口元を引き締め、「楽観主義に満ちている」と強がった。メイ首相は国民に宛てた書簡で「全身全霊を込めて下院で過半数を勝ち取り、英国と全国民のためにこの離脱協定を実現する」と誓った。

クリスマスまでに下院で承認を得るには320票が必要だ。政権の基礎票は324票だが、北アイルランドの地域政党・民主統一党(DUP)10人、保守党内のEU残留派最大16人、「合意なき離脱もやむなし」と鼻息が荒い強硬離脱派40~80人がメイ首相の合意案に異を唱えている。

世界は「統合」から「離脱」へ

議会を通るのか、予想できる人はおそらく1人もいないだろう。それにしても、どうして世界は「統合」「協調」から「離脱」に逆回転を始めたのだろう。

日産自動車会長カルロス・ゴーン容疑者の報酬隠し事件も、日産の経営権がルノーとの「不可逆的な経営統合」で、ルノーの筆頭株主であるフランス政府の支配下に置かれることから逃れる「緊急避難措置」とみる向きもある。

EUのメカニズムはまさに「不可逆的な統合」であり、それが逆に離脱バネを強めている。エマニュエル・マクロン仏大統領が労働法改革に着手したものの、フランスは週35時間労働。英国の上限は週48時間。日産もフランスより英国で車を作った方が効率的だ。

労働者の既得権ががっちり守られ、若者が就職するチャンスは限られている。このため、起業家や金融関係者ら30万人のフランス人が祖国を脱出して、英国で働く。今年5月、ヘンリー王子とメーガン妃の結婚式をウィンザー城のロングウォークで取材した時、そんな1人と出会った。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

焦点:闇に隠れるパイロットの精神疾患、操縦免許剥奪

ビジネス

ソフトバンクG、米デジタルインフラ投資企業「デジタ

ビジネス

ネットフリックスのワーナー買収、ハリウッドの労組が

ワールド

米、B型肝炎ワクチンの出生時接種推奨を撤回 ケネデ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 6
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story