コラム

独立をめぐるカタルーニャ「内戦」の勝者と敗者 36歳女性弁護士が大躍進した語られない真実

2017年12月23日(土)22時30分

独立派の集会でプチデモン前州首相の勝利を喜ぶ市民(筆者撮影)

[バルセロナ発]スペイン北東部カタルーニャ自治州で独立派が事実上の住民投票と位置づけた州議会選(定数135)が21日行われ、投票率は史上空前の82%に達した。独立派は2議席減らしたものの、過半数の70議席を獲得。しかし得票率は47%にとどまり、有権者の過半数が決して独立を望んでいるわけではないことを改めて浮き彫りにした。

独立に向かうカタルーニャ

kumura20141223134202.jpg

ロンドンにあるシンクタンク、王立国際問題研究所(チャタムハウス)で事前に行われた討論会では独立に賛成でも反対でもない中間票が増え、独立派は過半数に届かないという予想が多かった。が、フタを開けてみると独立派は10月の住民投票の204万票に2万票近く上積みした。デスクワークしかしていない識者や学者の話は本当に当てにならない。

これに対し独立反対派は189万票。州議会選や住民投票を何度繰り返しても同じ結果になる。筆者は投開票の当日、草の根独立派団体・カタルーニャ国民会議(ANC)の会場にいた。独立派勝利が濃厚になると間髪おかずに、スペイン国家憲兵が独立運動を扇動した31人の容疑者リストを新たに最高裁判所に送付したというニュースが飛び込んできた。背筋が凍った。

kumura20141223134203.jpg
6月の独立派集会で住民投票を呼びかけるグアルディオラ監督(ANCのアーカイブより)

この中には、カタルーニャ出身で独立を支持する英イングランド・プレミアリーグ、マンチェスター・シティのジョゼップ・グアルディオラ監督(46)の名前も含まれていた。国家反逆罪で訴追されると最長30年間投獄される恐れがある。これがスペイン中央政府、そしてマリアーノ・ラホイ首相の独立派に対する答えなのだ。

国家反逆罪などで訴追され、ブリュッセルに逃亡中の策士カルラス・プチデモン前州首相は選挙翌日、スペイン以外の欧州のどこかで無条件対話に応じるようラホイ首相に呼びかけた。プチデモン氏にとって対話とは「独立」への工程を話し合うこと以外にない。ラホイ首相はわずか2時間後「私の交渉相手は別にいる」と提案を一蹴した。

kumura20141223134204.jpg
台風の目になったイネス・アリマーダス氏(中央の女性、筆者撮影)

自治権が一時停止され、自らも訴追される中、州議会の過半数を維持したプチデモン氏は独立派の英雄に祭り上げられた。しかし独立に反対する市民を結集し、12議席増の第1党に躍り出た市民政党シウダダノス(Cs)の女性弁護士イネス・アリマーダス氏(36)の存在を忘れてはならない。

アリマーダス氏とシウダダノスは、ラホイ首相と国民党(PP)以上に強硬にカタルーニャ独立に反対している。なぜか。そこには州議会選で台風の目になったアリマーダス人気の秘密が隠されている。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

モディ首相、トランプ氏と電話会談 印パ停戦の米仲介

ビジネス

日経平均は3日続伸、主力株高い 先物主導との見方も

ワールド

イスラエル・イラン紛争6日目に、トランプ氏「無条件

ワールド

訪日外国人、5月は21%増の369万人 桜シーズン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越しに見た「守り神」の正体
  • 3
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火...世界遺産の火山がもたらした被害は?
  • 4
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 5
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 6
    【クイズ】「熱中症」は英語で何という?
  • 7
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 8
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 9
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 10
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 8
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story